自分好みを追求しつつ、あと16年維持するために日々愛情を注ぐAE86(ハチロク)トレノ

  • トヨタのスプリンタートレノ、AE86、ハチロク
“手塩にかけて育てる”という言葉が、これほどしっくりくるオーナーはなかなかいないだろう。そう思わせてくれるのは、スプリンタートレノ(AE86)に乗る『かっつん』さんだ。
ドリフトを日本中に広めたプロドライバー土屋圭市氏に憧れ、長年乗りたいと夢見ていたクルマを4年前に愛車として迎え入れたという。

「煙を巻き上げながら走る姿がカッコよくて、同じクルマに乗りたいと思ったんです。榛名山で行われたイベントで“ドリキン賞”をいただいたのは、僕にとって一生の思い出になりました。会場に土屋さんもいらっしゃっていたんですけど、ココにサインをしてもらったんです。もう、これは僕の自慢ですね」
もちろん、土屋氏が出演しているYouTubeや雑誌も、くまなくチェックしているという。
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そうして土屋氏への憧れをキッカケに始まったトレノ生活だが、お話を伺っていくと、両面テープで貼るタイプのカーボンミラーを購入して自分で装着してみたり、ボルクレーシング・TE37V SLホイールを履かせたり、テックアートの土屋圭市スペシャルモデルマフラーを装着したり。
短期間で一気にというよりは、段階を踏んで自分の理想とするクルマに少しずつ近づけているという印象を受けた。

「こうしてみようか?やっぱりこっちの方がしっくりくるかな?と試行錯誤しながらというスタイルなのかな。だから、いちど装着したけれどまた違うものに交換するということもありますよ。僕のカスタムは少しずつだけど、そういう時間が楽しかったりするんですよ」

走行性能についてもSPOON・リジカラを装着したり、ロールケージを組んだりと、理想の走りに近づくように仕上げていっているという。
かっつんさんのトレノは1986年式の後期型なので、フロアや天井には所々に汚れや毛羽立ちも見られるし、ボディやエンジンルームにもヤレや劣化が進行している部分がある。だけど、どれもが丁寧に使い込まれ、しっかり手入れされているのがわかる。
古びている部分が適度な“味”となっているように感じられるほど、たっぷり愛情を注がれていることが伝わってくるのだ。
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「疲れたなぁ…という時に乗ると、スカッと気分転換できるんですよ。そういった意味では、移動手段というよりは心の拠り所なのかもしれません。週末は、日光にある峠や群馬の榛名山に走りに行くこともありますよ」

走るのが大好きというかっつんさんは、トレノを愛車にする前に2010年式のシビックタイプRに乗っていたそうだが「電子制御が悪いということではないんですが、電子制御のあるクルマよりも、無いクルマの方が楽しいなと感じるんです。気温や気圧などの影響を受けるから、大変と言えば大変なんですけど(笑)」

「その分、加速などは一味違った良さがあります。重たいステアリングやマニュアルミッションも自分の腕で操っている感があるんですよ。そして、それが最大の魅力だと思いますしね」と、微笑む表情が深く印象に残った。
 
いっぽうでアクシデントに見舞われることも多く、作業が思い通りに進まないことも多々あるそうだ。

「オーディオの音飛びが激しいなと思って電圧をチェックしたら10Vだったんです。嫌な予感がしたのですが、そのまま走っていると段々とメーターパネルが暗くなって9Vに…。とにかく早く帰らなくちゃとクルマを走らせて、駐車場まであと100mというところで力尽きたことがあります」

「もっと最悪だったのが、こういう時に限って携帯を家に忘れているんですよ。保険屋さんに連絡するために目の前のペットショップで電話をお借りして、動物好きに悪い人はいないなと心に染みました。そんなドタバタ劇がしょっちゅう繰り広げられています(笑)
「その後、レッカー屋さんにバッテリーを繋げてもらって普通にエンジンはかかったんですけど、またすぐにエンスト…。再びレッカー移動することになったんです。こういうのが続くと『修理もしているのに何故?お寺に行ってお詣りもしたはずなのに(笑)!』と心が折れそうになったり、いっそ違うクルマに乗り換えようかなと思ったり…」
そんな苦労を味わいながらもトレノに乗り続ける理由は、自身はもちろん、もうすぐ2才になるという息子・健人くんのためでもあるようだ。

「小さい頃からミニカーを与え続けた結果、見事にクルマ好きに育ちました!本当に、それが嬉しくてしょうがないです。トレノを見ると、ブーブーブーブーと言って乗りたがり、乗せると『キャッキャッ』と声をあげて喜んでくれます。それがもう、たまらなく可愛くて可愛くて。だから、息子とはよくドライブに行きますよ。1時間半くらいですが、その間はチャイルドシートに座ってずっとニコニコしています。その姿を見ると、そんなに好きなら頑張って維持しなくちゃなと思うんですよね」
実はもう少し固くしたい足まわりも、健人くんのために柔らかくしていると話してくれた。
「いずれは、榛名山やクルマイベントにも連れて行きたいと考えているんです。そして、できれば息子にトレノを引き継ぎたいなぁなんて」とウキウキした様子のかっつんさんだが、そうすると少なくともあと16年はトレノを維持しなければならないという計算になる。
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「自分で大掛かりなメンテナンスは出来ないので、毎日乗って調子の善し悪しを見るようにしています。仕事から帰ってきて、ご飯を食べて、息子を寝かしつけたら、僕とトレノの時間です。コースは決まっているんですけど、家の周りを30分くらいグルグル周ります。どこか変な所は無いかな?と注意深く運転するんです。それが良いのか悪いのかは分からないですが、土日だけだと僕の場合は判断できないかなと思うし、悪い箇所が見つかれば早めに対応できますしね」と、メンテナンスにも余念がない。
現に、この日常チェックで不具合を発見してすぐに処置することができた事例もあったという。
「これからは電気自動車が主流になってくるでしょうが、良いクルマなので乗り続けていきたいんです。そして、息子にも、この良さを味わって欲しいんですよね。きっと楽しいはずだから」

16年後、切々の愛情を注いでいる息子さんに、手塩にかけて育ててきたトレノの運転席を譲る日は、かっつんさんにとって至福の時になるに違いない。
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『GAZOO愛車広場 出張撮影会 in 千葉市』
取材協力:フェスティバルウォーク蘇我

(文: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)

[ガズー編集部]

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MORIZO on the Road