『クルマはトモダチ』ロードスター大幅改良、これぞ決定版!・・・山田弘樹連載コラム

みなさんゴキゲンよう!
今回は待望の、ロードスター「大幅改良モデル」です。
詳細はcarview!(カービュー)にも寄稿したので、お時間があればご一読ください。
ということでここではいつも通り、マニアックに行っちゃいます。

  • マツダ・ロードスターの大幅改良モデル(ND型)

    2015年に登場して、約10年。大幅改良モデルはまさにNDロードスターの集大成といえる出来映えとなった。ヘッドライトとリアコンビランプをLED化して改良するも、そのデザインに手を触れなかったのは「変えられなかった」からだそう。その意見、私も賛成。

いやはやその進化っぷり、すごかった。
ロードスターといえば'22年に「990S」が登場し、スマッシュヒット。「これぞロードスターの決定版だ!」と話題になったわけですが……。

ほんと清水ダイブで990Sを買ったオーナーさんたちが可哀想になってしまうほど、今回の大幅改良でロードスターは良くなった。
今度こそこれが、決定版だと思います。

「ん? だったら新型でも、990S出せばいいじゃん!」と思うかもしれませんが、残念ながらそれは不可能。
なぜなら今回の改良で重量が増加して、一番軽い「S」でも車重が1010kgになってしまったのです。
コスト的な問題も、当然あるでしょう。とても990kgは実現できないという理由で、990Sはディスコンしてしまいました。

ライトウェイトスポーツカーにとって、軽さは正義!
「だったら990Sの方が走りはいいんじゃない?」と思うかもしれませんが、私は新型を推します。気持ちはわかるんだけど、悲しいかなこれが進化なのであります。

  • マツダ・ロードスターの大幅改良モデル(ND型)の運転席

    改良の骨子は、サイバーセキュリティの強化。その一環として、新世代マツダコネクトをアップデートしたのと同時にセンターディスプレイも7インチから8.8へと大型化された。だから前期型には電子系のアップデート移植ができない。朗報はNR-Aにも、マツコネはないけど8.8インチディスプレイが付いたこと。

そんな超熟ロードスター、何がいいって操舵フィールが抜群です。
ND史上(ここがポイント)、最高の出来映え。
走り始めて、普通にハンドルを切っただけでわかる。
感じるのですよ、確かな手応えを。

実を言うとこれまでワタクシ、「ND」にはちょっとしたモヤモヤを感じていました。その類い希なるパッケージングをして「いいクルマ」だとはわかっていても、なーんかスッキリしないところがあった。

それは曲がり初めの、やや希薄な接地感。ハンドル切り始めのインフォメーションが少ないから、スピードレンジを高めてコーナーへ入って行くのが、あまり好きじゃありませんでした。

だから個人的には足周りを少し固めた「RS」や、「NR-A」が好きだったのですが、
そもそもはロードスターって、普段の気持ち良さを大切にするコンセプトじゃないですか。

そこでダンパーの減衰力やバネレートを高め過ぎてしまうと、その良さ、いわゆる“ヒラリ感”が消えてしまうのかな?
だからそれ以外のモデルは、こういう味付けなのかなぁ? って思っていたんです。

  • マツダ・ロードスターの大幅改良モデル(ND型)の16インチホイール
  • マツダ・ロードスターの大幅改良モデル(ND型)のダブルウィッシュボーン

ロードスター最大の美点は、このサイズのスポーツカーのフロントサスにWウイッシュボーンを奢ったこと。初代から一環するこの意地とこだわりは、誰にも真似ができないところだと思う。195/50R16のタイヤサイズは変わらず。足周りにも変更は全くないというのだが……本当!?

だがしかーし!

接地感不足の正体は、電動パワステ(EPS)のフィーリングだったのです。
今回の改良でステアリング系はまずモーターが刷新され、その制御もマツダが自分でプログラミングするようになりました。加えてラック周りも、摩擦係数を低減しました。

すると、切り始めから操舵インフォメーションが、断然豊かになったんです。
もう、「なんだよー、早くやってよー!!」って感じ。
でもできてたら、やってますよね。何度もいいますが、これが進化というものです。

それにもまして残念なのは、このEPSが前期型にはアップデートできないということ。日本のハイオクガソリンにキャリブレーションしたエンジンマッピングも、新しくなったマツダ・コネクトも、電気が関係するメニューは全て、レトロフィットできません。

  • マツダ・ロードスターの大幅改良モデル(ND型)のエンジンルーム

    エンジンは1.5直列4気筒が日本のハイオクガソリン仕様としたことで約4PSパワーアップ。しかし車重も増えたから、速くなった印象はない。ただ制御プログラムが変わったせいか少しパンチが出て、気持ち良くなったと感じた。

ただですね、マツダの開発メンバーは「電動パワステ“だけ”では、ここまで大きくクルマは変わらない」と言うのですよ。
その隠し球が、今回新型となった「アシンメトリックLSD」。めっちゃマツダらしい、マニアックさ全開のリミテッド・スリップ・デフです。

その作動は、いわゆる機械式LSDの「1.5WAY」と同じ。ただし制御が逆で、アクセルオフ側の方のが、オン側よりも作動制限率(効き)が高いんです。

ロードスターは前後重量バランスがとてもよいスポーツカーですが、ブレーキングでフロント荷重を高め過ぎると、リアが不安定になる傾向があります。オープンボディだからフロントの足周りを固めて、ノーズダイブを抑えることもあまりしたくない。

このときアクセルオフ側のデフロック率を高めたアシンメトリックLSDは、ヨー慣性モーメントを打ち消してくれるわけです。直進しようとする力を強めて、オーバーステアを打ち消すわけですね。

対してオン側を緩めに取っているのは、まず後輪駆動でそもそもトラクションが良いから。そこでロック率を高め過ぎてしまうと、今度は逆にヨーモーメントが強くなりすぎて、一般的なドライバーだとスピンしやすくなってしまいます。
もっとLSDをガッツリ効かせたい人は、機械式LSDを選んでくださいね、とうわけです。

  • マツダ・ロードスターの大幅改良モデル(ND型)のリア

    ロードスターの購入を迷い続けているなら、この大幅改良モデルは間違いなし。これから始まる騒音規制や排ガス規制の厳しさを考えても、手に入れておくべきタイミングだと思う。というかこれだけ軽さにこだわり、燃費も良く(うまく走れば18km/ℓは行きます)、音量も控えめで、真面目に作り続けられているスポーツカーの存続が、どうして危ぶまれなくてはならないのか。

ちなみにこのオフ側・強/オン側・弱の配分は、とても珍しいんだそうです。そしてロードスターの他にも一台、有名なスポーツカーがこのセッティングを採用しているといいます。
どれだかわかりますか?

それは、ポルシェ911(のLSD付きモデル)だそうです。
つまりこのセッティングは、ターンインでオーバーステアになりやすく、トラクションがしっかり掛かるスポーツカーに有効なわけですね。勉強になるなぁ。

だから前期型オーナーも、アシンメトリックLSDの装着は有効です。
イニシャルトルクが前期型のスーパーLSDに比べて半分くらいだから、普段はさらに曲がりやすく。そして雨の日はもちろん、ビシッと走らせたときに、安心感が高まる。
だから走りが良くなったというわけですね。

でもその走り、本当にEPSとLSDだけ?
私にはどうしても、足周り換えたでしょ!? としか思えないんだよなぁ。
後編ではそれについて、ガッツリ話します!

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山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


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