ETC車載器も料金所も必要ない、台湾の高速道路から考える日本のETCシステムの課題…安東弘樹連載コラム

以前、日本の高速道路電子料金収受システム、「ETC」について、このコラムで書かせて頂いたと記憶していますが、先日、某テレビ局の某番組でETC特集があり、コメンテーターとして出演させて頂きました。

その番組では主に「ETCX」を取り上げ、その利便性や将来への取り組みなどを紹介。私は、他のコメンテーターと共に感想を述べたり、解説したりするという役割でした。

では、まず、ETCXとは何か、を説明させて頂きます。

ETCXとは

大まかに申し上げると、“現在のETCカードにクレジットカードとしての機能を付帯させる事で、様々なサービスを受けられるようになり、ショッピングも可能になるシステム“です。しかも、基本的にはドライブスルーですので、クルマに乗ったままで決済ができるとのこと。

今はまだ、関東地方近辺で、クルマの試乗会や雑誌撮影などでおなじみ?のアネスト岩田ターンパイク箱根や周囲の伊豆中央道、修善寺道路の支払いなどに、使える程度です。そのため御存知ない方がほとんどだと思いますが、今後は使用できる施設や道路が増えていく、という事です。

ただ、現状、決済には「一時停止」が必要です。例えばターンパイクでは、料金所で一旦停止し、係の方に「ETCXです」と言わなければならないのが難点です。

私は仕事柄、このターンパイクを月に一度は通行するので、財布から、わざわざ現金を出して、支払い、お釣りを貰う、という作業から解放されるだけでもありがたいとは思いますが、どこか中途半端な印象はぬぐえません。

ちなみに、このターンパイクにETCを設置するには、1億円ほどのコストが掛かるとの事ですが、ETCXに対応させるだけ、の場合、担当の方曰くコストは10分の1から100分の1、になるそうです。

私は、それを聞いて、ETCXの可能性を感じると共に、ETCゲートの設置やシステムの導入にかかるコストに驚きました。

日本のETCシステムに疑問

そのETCゲートが日本中に設置されている、という事は、日本全体では、どれだけ莫大なコストが掛かっているのでしょうか。

我々は、その恩恵を受けているのですが、もしこれが、世界一高額、とも言われる高速道路の通行料金に影響しているとしたら、コストダウンの方法も考えるべきではないか、とも考えました。

勿論、高速料金が高い理由の第一は、日本の山岳地形や災害が多いことで建設単価が高い、から、と言えるのですが、それにしてもドイツやアメリカは「基本的には」高速道路は無料だと考えると、やはり、「尋常ではない」レベルと言っても良いのではないでしょうか。

また、高速料金が高い理由の一つに、このETCゲートの設置費が含まれているとすれば、個人的には、根本的にシステムを変えて欲しい、とさえ思います。

勿論、初期費用は掛かるでしょうが、道路は半永久的に使うものですから、出来るだけ早く、より低コストで利便性の高いものに変えた方が将来的には、利用者も運営側も恩恵を受けられるのではないでしょうか。

ちなみに2015年に国際有料道路協会から最高賞を受賞、2016年には国際道路連盟から世界道路成果賞におけるスマート交通管理部門で、最優秀賞に輝いた“台湾のETCシステム”は、まさに画期的で、低コストでの運用が可能なのです。何といってもユーザーの利便性は、正直今の日本のETCシステムより、かなり高くなると思われます。

システムを簡単に説明しますと、台湾のETCはフロントガラスに「e-TAG」と呼ばれる、シールを貼るだけで車載器は必要ありません。

このe-TAGにはICやアンテナが内蔵されており、料金所(というよりセンサー)などからの電波をエネルギー源として動作する、パッシブタブになっています。電源すら必要ないのです。

しかも、このタブは低コストで作れる為、ユーザーには無料で提供されます。この様な理由から普及も早く、しかもセンサーゲートが所々に設置されている為、e-TAGが付いている車がどこから入って、どこで高速道路を降りたのかは瞬時に把握されます。

ですので、高速道路には料金所も有りませんし、ドライバーは減速する必要もありません。当然料金を徴取するスタッフも居ません(この制度を導入する時に、スタッフは解雇になったのですが補償金を支払うか、管理部門への異動などで対処したそうです)。

インターチェンジから高速道路へ合流する場合が多いのですが、ここから高速道路だという表示があるだけで、あとは高速道路の制限速度に変えて走行するだけです。料金の徴取方法は、e-TAGに銀行口座やクレジットカードを登録しておいて決済する、という方法です。

私は、かねて、日本のETCのゲートで20km/hに減速する理由も理解できませんでしたし、まして、全てのクルマがゲートを通過する度にバーを上げ下げする、というのもエネルギーが無駄に思えて仕方がありませんでした。

今の日本のETCでも、技術的には100km/h以上でゲートを通過しても料金の徴取は可能です(実は日本でもゲートが無い場所もあります)。

ではなぜ、減速させるかと言えば、万が一、バーが上がらない場合の追突事故の危険性を避けるためです。

実際に、そのような事故は少なくありません。現実的に全てのクルマが20km/hまで減速しているとは思えませんし、基本的に、バーは上がるもの、という気持ちで通行しているドライバーが多いため、このバーが事故の要因であるのは自明です。

バーを、わざわざ上げ下げする理由として、NEXCO や国交省の方は、「不公平が無いように確実に料金を徴収するため」「正直者が損をしない為です」と仰っていました。

では、台湾では故意、もしくは過失でe-TAGを付けていないクルマが高速道路を通行したら、どうなるか。

これはナンバープレートを読み取って、それを元にユーザーに請求書が送られる仕組みになっています。しかも、その請求にコストが掛かりますので、通常料金の10%増し(正確には、10%のETC割引が適用されない)の料金が請求されます。

日本のETCでも、通過した全てのクルマのナンバーは読み取られていますので、このシステムの導入は、技術的には可能だと思われます。

事故のリスクも軽減し、ゲートのコストも低減できる。個人的には、今すぐ日本も台湾式にするべきだと考えています。台湾では2014年から、このシステムに変わっており、それまでは日本と同様のETCシステムでした。

以前、ある交通関係者に、この話をした際、「台湾は日本よりクルマの台数が少ないし、高速道路の距離も短いから、このシステムに変える事が出来たのではないか」、「今からシステムを変えるのはコストが掛かるから日本では難しい」との返答でしたが、何事も変革は必要です。

改めて整理しますと、台湾式(アメリカの、ごく一部の有料道路も似ているシステム)は、車載器が必要なく、安価なe-TAGを使うため、ユーザーの負担はほとんどありません(日本では無料でなくても良いと思いますが、今の車載器よりは相当負担は減る)。

ゲートで減速の必要が無いため、渋滞の緩和にも寄与する。燃費も良くなる(多少?)。当然、ゲートでの事故発生リスクも無くなる。そしてシステム、そのもののコストもかなり抑えられます。

皆さんは、どのように思われますか?

私は、ほぼ毎日、高速道路を使っていますので、ETCゲートで毎回、前の車が、急に止まるのではないかと思いながら減速しています。実際に何度か、前の車が止まり、ドキドキしたこともあります。そして、後ろには止まらざるを得なかったクルマが長い列を作る。残念ながら日本の高速道路では珍しくない光景です。

個人的には日本でも、そんな光景が無くなり、無駄な減速をせず、ましてや緊張せずに高速道路を走行できる日が来るのを夢見ています。

安東弘樹

MORIZO on the Road