【試乗記】三菱エクリプス クロスP(4WD)

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    三菱エクリプス クロスP(4WD)

看板に偽りなし

大規模なデザイン変更を受けた「三菱エクリプス クロス」だが、マイナーチェンジの本命は、やはり新たに用意されたプラグインハイブリッド車(PHEV)に違いない。寒風吹きすさぶワインディングロードでその仕上がりを試した。

2モーター式「S-AWC」で大変身

水を得た魚とはまさにこのクルマのことである。マイナーチェンジを機にプラグインハイブリッドシステムと三菱自慢の2モーター式「S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)」を搭載したエクリプス クロスは、びっくりするほど軽快機敏なハンドリングを備えていた。

エクリプス クロスは2017年のジュネーブモーターショーでお披露目され、その1年後に国内発売された三菱の最新コンパクトSUVである。ウエッジシェイプを強調するスタイルと“クロス”を冠したネーミングから、トレンドに乗ったおしゃれなクーペSUVかと思いきや、実は実用的で手堅いまっとうなSUVだった。全長4.4m級のコンパクトSUVで、軽快だが骨太な感覚が伝わってくるクルマはめったになく、質実剛健な背骨が一本通っている感じがいかにも三菱らしかった。

そんなエクリプス クロスが発売から3年足らずにもかかわらず、ボディー形状やサイズまで見直したマイナーチェンジを受けたが、注目は同時に追加されたプラグインハイブリッドモデルである。新しいエクリプス クロスはボディーの前後部分のデザインを一新。フロントグリルからつながるヘッドライトは、新型ではデイタイムランニングライトとウインカーに置き換えられ、本当のLEDヘッドライトはフォグランプと対になって下方へ移されている。さらに特徴的だったダブルガラスウィンドウのテールゲートを廃し、オーバーハングを延長したうえに一般的な形状のハッチバックスタイルを採用している。

インテリアもSDA(スマートフォン連携ディスプレイオーディオ)が7インチから8インチに拡大されるなどアップデートされているが、一番の注目はやはり「アウトランダーPHEV」の経験を生かしたPHEVを新たに設定したことである。三菱が2020年に発表した新環境計画パッケージでは、まずは2030年までに新車と事業活動でのCO2排出量40%削減と電動車比率50%を目指すとしているが、その方針に沿っていわゆる環境車のラインナップを拡充するためであり、さらに2021年からのEUの平均CO2排出量ルール(95g/km)が背景にあることは間違いない。

世界初の量産電気自動車として「i-MiEV」を発売したように、三菱は早くから電動化モデルを積極的に投入してきたが、同社のアウトランダーPHEVは西欧諸国で人気が高く、2013年以降これまでの累計販売台数はおよそ26万台に上るという。実は世界で一番売れているPHEVである。その経験を生かして開発されたのがエクリプス クロスPHEVだ。

急速充電にも対応

アウトランダーは全長4.7m級で純ガソリンモデルでは3列シートを備えていたが、全長が140mm延長され4545mmとなったとはいえ、それに比べればエクリプス クロスは依然としてコンパクトだ。伸びた全長のうち105mmがリアオーバーハングの延長に充てられ、残りはフロントオーバーハング分となる。アウトランダーPHEVと同じ2670mmのホイールベースは従来通りで、1805mmの全幅と1685mmの全高にも変わりはない。リアオーバーハングの延長はプラグインハイブリッドパワートレインを収めるためとみていいだろう。

総電力量13.8kWhのリチウムイオン電池はホイールベース内のフロア下に格納されているが、インバーターなどパワーコントロールユニットの搭載場所(ラゲッジスペースのフロアボード下奥に配置)を捻出する必要があったらしい。また従来型のラゲッジスペースが若干狭いとの声もあったという。ちなみに後席がスライド可能だった従来型の荷室容量は341~448リッターで、それに対して新型のガソリン車は405リッター、PHEVは若干小さく359リッターである。

エクリプス クロスPHEVのパワートレインはアウトランダーPHEVと基本的に同じもの。アトキンソンサイクルを採用する2.4リッター4気筒DOHC自然吸気エンジンは128PS(94kW)/4500rpmと199N・m(20.3kgf・m)/4500rpmを発生、前後モーターはそれぞれ82PS(60kW)と95PS(70kW)を生み出す。基本的にモーター走行を優先させるEV寄りのキャラクターだが、高速走行時や急加速時などの場合はエンジンも駆動に加わるパラレル走行モードとなる点や、前後アクスルが機械的に連結されず、後輪はモーターのみで駆動されることもアウトランダーPHEVと同様。普通充電(200Vで満充電まで約4.5時間)と急速充電(出力20kW以上の充電器を使うと約25分で80%)の両方に対応していることも同一である。

一気にプレミアムSUVに

従来通り1.5リッター4気筒ターボエンジン(150PS/240N・m)+8段スポーツモード付きCVTを搭載するガソリン仕様(FWDと4WDともに設定)は軽快で扱いやすく、気負いなく走らせることができるのが特徴だが、PHEVは明確に違う。アウトランダーPHEVの場合もそうだったが、エクリプス クロスPHEVも、標準モデルより格段にボディーがしっかりしているように感じるのだ。PHEVだけボディーをつくり分けているわけではないというが(構造用接着剤を多用しているのはガソリン車も同様)、バッテリー搭載のためのフレーム追加などの相乗効果なのか、はるかに頑強なボディーを備えているような印象だ。

言うまでもなくPHEVのほうがガソリンモデルに比べてずっと重いのだが(ガソリン4WDは1500kg級だがPHEVは300kg以上重い)、バッテリーを車体中央に置くなど配置を最適化し、前後重量配分を55:45としたうえに、重心高がガソリンモデルに対して30mm低下しているせいか、走りだしからレスポンスよく、しかも静かで滑らかなせいで重さを感じさせない。重い物が滑らかに、かつ思い通りに動くと上質な印象を与えるものだが、エクリプス クロスPHEVは、走りだすとまるでプレミアムクラスのSUVである。普通に走る分にはほとんどモーター走行だが、エンジンが始動する時も一部のハイブリッド車のようにいきなりうるさくうなりをあげるようなことはない。この辺りの洗練度は現行型アウトランダーPHEVでの経験が生かされているようだ。

曲がり過ぎ(?)を抑えた制御

可変ダンパーなどの“飛び道具”を持たないエクリプス クロスだが、しっかりしたボディーのおかげで乗り心地も上々。2t近い車重にもかかわらず、常にフラットな姿勢を保とうとするうえに、姿勢変化が小さいおかげで実際の寸法以上にコンパクトに感じられた。ハンドリングも正直、予想を超えて俊敏かつ洗練されている。右足の動きに力強く即応する前後モーターと前後輪の駆動力を絶妙に制御してくれるS-AWCのおかげで、面白いように、そして精密にコーナリング中の姿勢をコントロールできるのだ。

特にPHEVだけに設定された「ターマック」モード(他に「ノーマル」「スノー」「グラベル」がある)では、後輪駆動ベースの4WD車のように、わずかにカウンターステアを当てながら軌跡を選べる自在さもある。早朝の山道にはうっすら白く霜が残っている部分もあったが、そんな場所であえてパワーを与えてもほとんど姿勢を乱すことなく、そのうえスリップアングルが小さいうちは、スタビリティーコントロールもほとんど介入せず(行き過ぎるとしっかり抑えてくれる)、ドライバーに任せてくれるのだ。これでもアウトランダーPHEVよりは安定性重視だというから驚きだ(プロトタイプでは曲がり過ぎるぐらいだったという)。もちろん過信は禁物だが、雪道ではさぞかし楽しいのではないだろうか。4WDの三菱の面目躍如である。

(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)

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