10年かかってフルレストアしたダットサンフェアレディ1600。再び走り出したそのクルマの行先は?
若かりし頃、フェアレディ240ZGに乗っていたという「伊佐さん」。当時は、このクルマが1番カッコイイと思いながら運転していたのだそうです。
ある時、いつものドライブコースを走っていると、その横をとあるクルマが追い越して行ったのだとか。そのクルマというのが現在の愛車である ダットサンフェアレディ1600 で、まさか自分の愛車になるとは思ってもなかったのだそうです。
今回は、伊佐さん×ダットサンフェアレディ1600のお話をお届けします。
――ダットサン1600に出会ったキッカケはなんだったのですか?
出会いは10代の頃で、ドライブをしていたら横を抜かしていったのがダットサンフェアレディだったんです。当時の僕は240ZGに乗っていたんですけど、自分のクルマが1番カッコイイと思っていてね(笑)。
ところが、見惚れてしまうくらいもっと素敵なクルマがサーっと通り過ぎたもんだから、なんだあのクルマは……って呆気に取られちゃったのを今でも覚えています。今65歳だから、40年以上も前のことになるんだけどね。
――鮮明に覚えているということは、心に残る出来事だったんですね。どういう所がカッコイイと思ったのですか?
リアにある3つのランプや、エッジが効いているメリハリのあるライン、スポーティーなんだけどエレガントな雰囲気とか。とにかく、後ろ姿がすごく良かったんです。
オールディーズという1980年代に流行ったアメリカポップスがあるんですけど、それっぽい雰囲気がしているなぁって。サイズ的には小さいんですけど、フロントマスクの丸いグリルとか、なんとなくアメリカ車を真似たような……そんな感じに見えたんですよ。
それで、当時僕がそういうのに憧れていたから、なおさらにカッコイイと思っちゃったんですよね。
――なるほど。それで愛車として迎え入れたわけですね。
そうです。だけど、手に入れたのは16年前で、初めて出会ってから随分と時が流れてしまったんですけどね。すぐに乗りたいとは思ったものの、昭和50年代だったからインターネットもないし、車屋に行っても無いと言われるし、探す手段がなかったんですよ。
乗りたいなぁというのはあったけど、その気持ちも薄れていた時に、バイク仲間の家に置いてあるのを見たんです。売らないよと言われたんですけど、随分と長い間通って口説き落としてね(笑)。とうとう最後は、いいよって(笑)。
ただ、全く動かないし錆びているしで、動き出すのに10年もかかっちゃいましたよ。というのも、僕のような素人が、技術もお金もなく熱意だけでレストアしたものですから、効率が悪いというかなんというか……。
今の修復技術や専門の業者さんがいれば、あっという間に短期間で修復できたんでしょうけど、なかなかそういう風にはいかなかったから……。僕じゃなければ、もっと早くレストア出来たかもしれません。
――状態はどんな感じだったのですか?
思った以上に悪くて、フルレストアコースでした。全部バラバラに分解して、サビを取って、プラモデルみたいに1つ1つまた組み立てるといった感じでしたね。
1番大変だったのは、ボディとフレームを剥がす作業。なんてったって、この作業に2年もかかったんですから……。
――2年ですか!?
そうそう……。2回、いや6回くらい心が折れかけましたよ……。
――どちらにせよ、めっちゃ心折れかけてるじゃないですか!!
いやいや、本当に……。ボディとフレームが溶解して固着してしまっていたんですけど、無理やり剥がして失敗したらどっちも歪んで走れない状態になると言われましてね。
だから、サビを落とす溶剤を毎日塗って、ジワジワと剥がしていったんです。
――私だったら、すぐに痺れをきらしそうです……。
それ、僕もです(笑)。2年間頑張ったんだけど、この作業が終わらなくちゃ何も始められないわけだからイライラしてきちゃってね。最後は、失敗してもいいからやってくれ!って言いましたから(笑)。
荷物を吊り上げるような重機で上げてもらって、下に重しをつけて引っ張るという方法で剥がしたんですけど、バリバリバリッて音を立てながら……
――どうなったんですか!?失敗しちゃったんですか!?
いや、上手く離れました。
――ちょっと!変なタメを作らないで下さいよ!心配したじゃないですか!
いやいや、失敗してたら今走っていませんから(笑)。はっはっはっはっ!
――……。
やっとスタートラインに立てたなって、すごく嬉しかったですね。
職人さんが叩き出しでボディを作っていた時代のクルマだから、パテを塗っては削ったような跡があったりとかしてね。ハンドメイドのようなクルマというか、その片鱗が垣間見えたのもすごく面白かったです。
錆びたエンジンは自分で磨いたんですけど、部屋に持ち込んで仕事終わりにずっとヤスリで磨いていましたよ。幸いなことに、単身赴任中で部屋は沢山ありましたから。
部品が無いとか本当に色々大変だったけど、今となっては良い思い出です。
――実際に運転してみてどうでしたか?
やっとこの時がきたか……!と、感激でしたよ。シートは低くて、乗り心地は20歳の時に乗っていたクルマの感覚そのものでした。
ハンドルもクラッチも重いし、今の人からしたら良い所はないのかもしれないけど、そういう時代に育ったから懐かしさがあってね。65歳のはずなのに、なんだか若返った気分でしたよ。不思議ですよね(笑)。
――伊佐さん、なんだかとても幸せそうです♪
はい。もう無理かもしれないと思っていたから、それに乗れて本当に幸せなんです。今後は、出来るだけオリジナルを大切にしつつ、このまま動く状態を維持していこうと思っています。
そして、私が死んだとしても、このクルマは世に残していければと思っています。ただ残すだけじゃなくて、せっかくこうやって走るようになったんだから、ずっと走り続けてほしいなというのが願いです。
誰でもいいから、大切にしてくれる次の人にバトンタッチというかね。
長い年月をかけて、乗りたいクルマにやっと乗れたという伊佐さん。今は、その時間を埋めるようにドライブに行っていると話してくれました。これからも、素敵なカーライフを過ごして下さい。
(文:矢田部明子)
[GAZOO編集部]
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