馴れ初めはグランツーリスモ2。31歳のオーナーの愛車は1994年式トヨタ スープラRZ(JZA80型)

愛車との出会いにはオーナーごとにストーリーがある。…と同時に、時代を感じさせるような出会いも少なくない。

今回の主人公であるオーナーの年齢は31歳。昭和から平成に年号が変わるタイミング、つまりセルシオやユーノス ロードスター・NSX・そしてスカイラインGT-Rなど、いまでも強烈な印象を残す名車がデビューしたときにこの世に生を受けたことを意味する。

今回はオーナーがどのようにスープラと出会い、そして愛車に選んだのか。じっくり紐解いていきたいと思う。

「このクルマは、1994年式 トヨタ スープラ RZ(JZA80型/以下、スープラ)です。手に入れてから5年、現在の走行距離は、約10万1千キロです。手に入れてから3万キロくらい乗りました。自転車通勤なので、スープラに乗るのは休日が主ですね」

スープラの名を冠したクルマとしては、日本国内向けでは2代目(海外では4代目)にあたる、通称“80スープラ”と呼ばれるのがこのモデルだ。このクルマがデビューしたのは1993年5月。「THE SPORTS OF TOYOTA」のキャッチコピーを記憶しているファンも多いことだろう。

スープラのボディサイズは、全長×全幅×全高4520x1810x1275mm。発売当初はターボ仕様の「RZ」と「GZ」、ノンターボ仕様の「SZ」の3グレード構成となり、一部のグレードにはエアロトップ仕様も用意された。「RZ」にはドイツのGETRAG(ゲトラグ)社との共同開発による6速MTが採用され、大型のリアスポイラーが設定されるなど、スポーツカーの新たな時代の到来を予感させるモデルとして大きな話題となった。ちなみに車名のスープラは、ラテン語で「超えて」「上に」という意味に由来する。

オーナーのスープラは、ターボ仕様の「RZ」だ。「2JZ-GTE型」と呼ばれる、排気量2997cc、直列6気筒DOHCツインターボエンジンが搭載され、最大出力は280馬力を誇る。このほかにもノンターボ仕様の「2JZ-GE型」エンジンが搭載されたグレードも設定され、こちらの最高出力は225馬力であった。モータースポーツの世界においてもル・マン24時間に参戦したほか、日本では、SUPER GTのGT500クラスに参戦、2002年8月に市販型のスープラが生産終了した後も、2005年まで第一線で活躍した。

このスープラよりも数年前に産まれたオーナー。このクルマとはほぼ同世代と解釈しても差し支えないだろう。そんな彼がスープラを愛車に選んだきっかけとは?

「クルマというか、スポーツカーに興味を持つようになったきっかけは中学生のときでした。部活動の顧問の先生が三菱ランサーエボリューション7のオーナーだったんです。当時はモー娘。や、ポケモン、遊☆戯☆王などが全盛期でしたから、大半の生徒たちは先生がランエボに乗っていても興味がなさそうでしたね」

学校の先生がクルマを買い替えるたびに男子生徒が盛りあがっていた時代を知っている筆者からすると、少し寂しい気がする。これも時代の流れなのだろうか…。それはさておき、オーナーにとって運命の出会いが訪れる。リアルではなく、バーチャルの世界で。

「クルマに興味を持つようになり、最初にハマったのは“グランツーリスモ2”というゲームでした。スバル インプレッサ(GD型)のラリーカーやランエボが好きでしたね。ゲーム内で行われるレースで勝利するたびに賞金を稼いでクルマを買い替えていくのですが、ある程度ステップアップしていったとき、偶然“カストロール トムス スープラ”に一目惚れしてしまったんです」

いまや、世界中で熱烈なファンを獲得しているグランツーリスモシリーズのおかげで、クルマ好きの若者が1人増えたことは間違いない。

「カストロール トムス スープラはレーシングカーだから実車を買うことはできません。しかし、ベースとなったスープラの市販車ならチャンスがある…といいたいところでしたが、当時、私はまだ高校生。この時点で“80スープラ”はすでに生産を終了しており、手に入れるとしたら中古車のなかから選ぶことになるわけです。それでも、軽く200万円オーバー。学生だった私にとって夢のまた夢の存在でした」

その後、オーナーは自動車整備の専門学校へ進学。整備士に必要な国家資格を取得して、ディーラーのメカニックとして社会人デビューを果たすことになった。

「社会人となり、ようやく人生初の愛車を手に入れることができました。念願のスープラではなく、“カローラ アクシオGT TRDターボ”というスポーツモデルです。現在は、ディーラーのメカニックではなく別の仕事をしているのですが、社会人になって手に入れた最初の愛車なので思い出深いです。このクルマは6年ほど所有して、知人に譲りました。現在はナンバーを切り、サーキット走行会のデモカーとして活躍しているそうです」

レアなモデルゆえピンとこない方もいるかもしれないが、カローラとしては10代目にあたるこのモデルにも、往年のファンには懐かしい「GT」の名を冠したスポーツモデルが設定されていた。このクルマをベースにTRD(トヨタテクノクラフト)が数々の専用パーツを組み込み、仕立てあげたスペシャルモデルが“カローラ アクシオGT TRDターボ”である。

余談だが、SUPER GT 2009年シーズンから“カローラ アクシオ apr GT”としてGT 300クラスに参戦しており、まさにオーナーにとってうってつけのモデルだったといえそうだ。そして、ついにオーナーにとって「宿願」ともいえるスープラを手に入れるときが訪れた。

「次のクルマを探していたとき、友人から勤め先のクルマ屋さんにスープラの下取り車が入庫してきたとLINEを通じて連絡が入ったんです。グレードや走行距離を聞くと、グレードはRZ、走行距離は7万キロ台、2オーナー車だというのです。しかも、現在はもちろん、当時としても破格値で譲ってもいいといってくれたのです。現車はもちろん、画像で確認することもなく、すぐさま“購入したい”と伝えました」

LINEの文字情報だけでスープラの購入を決めてしまったオーナー。初対面で後の愛車となるこの個体の詳細を知ることになった。

「グレードや走行距離の情報は事前に聞いていたとはいえ、現車のコンディションやボディカラーは把握していませんでした(笑)。クルマ屋さんで初対面してみて、ブラウンメタリックのボディカラーだと知りました。正確には“ダークブラウニッシュグレーマイカメタリック”というボディカラー名です。正直、予想外の色でしたね」

“80スープラ”の定番のボディカラーはスーパーホワイトIIIか、ブラックやシルバーメタリックあたりだろうか。どちらかというと、この色はレアなボディカラーといえそうだ。

「目が慣れるまで1ヶ月くらい掛かりました(笑)。ボディカラーが白やシルバーだったら、R33型GT-Rの純正色である"ミッドナイトパープル"に塗りなおすつもりでしたが、結果オーライでした。純正色のなかでもレアなボディカラー、しかもフルノーマルのRZが手に入れられたのは本当に幸運でしたね。いまではこのボディカラーが大のお気に入りで、3年前には同じ色にオールペンしたほどです」

現車を見る限り、ブラウンメタリックというよりもガンメタリックに近い色合いかもしれない。当時、このボディカラーを生み出したスープラの開発メンバーも、密かにお気に入りの色だったのではないかと思えてくるほど、スポーティさと高級感を兼ね備えた美しいボディカラーだ。ところで、購入時にはフルノーマルだったスープラも、オーナーが手に入れてから随所にモディファイが施されているようだが…。

「マフラーは出口の形状や大きさ、音にもこだわり、柿本改製の“Regu.06&R”を選びました。ターボ車であることを主張できるフロントインタークーラーはTRUST製、ラジエーターはKOYORAD製の3層アルミ、タワーバーはCusco製、ホイールはADVAN製の“KREUTZER SERIES Xi”、ブレーキローターはDIXCEL製、その他、追加メーターはDefi製、ターボタイマーはHKS製のものを組み込んであります。細かいところにも手を加えていますが、基本的にはいつでもノーマルに戻せるように、過度なモディファイは避けています。ノーマルの良さを理解しつつも、愛車に自分の色も出したい…。毎回、そのせめぎ合いですね」

ノーマルの完成度を理解しつつ、同時に自分のこだわりを形にしたい…。元メカニックとしての知見と、クルマ好きとしての想いが絶妙なバランスで形になったモディファイといえるだろう。

取材中に気づいたことがある。クラッチミート、アクセルワーク、ドアやボンネットの開閉、クルマと接する際の所作のひとつひとつが実に繊細で優しいのだ。こんなところからも、スープラに対する深い愛情が伝わってくる。

「サーキット走行もしますが、タイムアタックのような全開走行は避けています。あくまでもコンディション維持が最優先ですね。エンジンオイルは無条件に2000kmごとに交換することを心掛けています。最新のモデルではなく、このエンジンの特性に合うものを選んでいます。銘柄はもちろんカストロールですよ(笑)」

スープラといえば、後継モデルにあたる“A90型”や、“A70型”および“A80型”の補給部品復刻・再販売がアナウンスされるなど、オーナーにとって気になるトピックが満載だ。

「“90スープラ”の復活は本当に嬉しいですね。このクルマを見るために今年の東京オートサロンにも行きましたし(笑)。グレード構成やエンブレムのデザインなど、80スープラを意識していることも大歓迎です。しいていえばMTモデルが欲しいですね…。補給部品復刻・再販売に関してはウェザーストリップなどゴム系の再販が決まることを願っていますが、まずは“トヨタさん、決断してくれてありがとう!”そして“GRスープラでのスーパーGT参戦ならびに復活、本当にありがとうございます。今後、サーキットにおける他のカテゴリーの活躍を期待しております!”と、この場を借りてお伝えしたいです」

スープラオーナーである彼の声が、クルマの開発陣やレース関係者に届くことを祈るばかりだ。最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「このクルマは一生モノです。保管場所はどうにかなるので、壊れたとしても1/1スケールの模型として残します!」

1台のクルマがオーナーのカーライフを、そして人生までも変える力を秘めている。スープラを手に入れるきっかけとなったグランツーリスモ、そしてSUPER GTにスープラがエントリーしていなかったら…。そんな想いが頭をよぎる。オーナーは、いまでも愛車のスープラを駆り、主に関東圏で開催されるレースを観戦しているという。

スープラへの愛情が本物だからこそ、バーチャルを経て現実の世界でも夢を叶えることができた。将来、歴代スープラがオーナーのガレージに並んでいる…。そんな光景も、いずれ現実になるように思えてならない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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