トヨタ水素エンジン車は4合目、今後は液体水素にもチャレンジ、年内のレース参戦を期待

  • 車載用液体水素システムと液体水素GRカローラ

2022年6月3日から3日間、富士スピードウェイで第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースが行われた。今年の参戦台数は過去最高の56台、観客動員数は3万8100人、レース関係者、観客から熱気を感じた。

この要因の一つとして、新型Z、新型GR86、カーボンニュートラルのGR水素カローラ、GR86、BRZ、マツダ2など話題が豊富なことだ。レース前日、新型Zの1台もカーボンニュートラル燃料を使用していることを日産が発表している。
もう一つの盛り上がりの要因は、24時間レースをキャンプしながら観戦するスタイルが根付いてきたのだろう。サーキットにテントの花が多く咲くと、サーキットがとても華やかに感じる。

昨年の進化

昨年の富士24時間の話題といえば、水素エンジンのカローラがデビューしたことだ。その後1年、BEV以外のカーボンニュートラルの新たな選択肢へのチャレンジをしてきた。そして、2022年6月3日に富士スピードウェイに隣接するルーキーレーシングガレージで“スーパー耐久での取り組みの進捗”についての説明会が行われた。
なおこの会見には、TOYOTA GAZOO Racing ワールドラリーチームの代表であり、この富士24時間で水素カローラのステアリングを握るヤリ-マティ・ラトバラ選手も参加していた。

豊田社長は、この1年を「カーボンニュートラルの取り組みが進み、ともに挑戦する仲間も増え、車も進化してきた」と説明した。
TOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)の佐藤プレジデントは富士登山に例えて、「市販化するまでに現在は4合目まで登ってきた。これから商用の用途、乗用の用途に向けてチャレンジをしていきたい。また給水素については、充填時間が5分から1分半になっている。これも4合目ぐらいにいると考えている。今後は、高圧の気体での開発を頑張るとともに、体積密度を上げる液体水素への挑戦もしていきたい」と語った。
スペック的には、昨年より最大出力20%、最大トク30%、後続距離20%を実現し、富士スピードウェイの1周のタイムは昨年より5秒/周も短縮している。

また会見の中で明らかにされたのは、モリゾウ選手は7秒/周短縮しており、ドライビングスキルが昨年より2秒向上しているということ。佐々木選手によると、この1年でブレーキコントロールが上達し2秒短縮できたそうだ。

写真はYouTube富士24時間レース 記者会見より引用

4合目までの道のり

1合目 2021年5月 水素カロ―ラデビュー@富士SUPER TEC 24時間レース

水素カロ―ラでのスーパー耐久レースへの参戦理由を豊田社長は以下のように説明した。
「デビューの半年ほど前に、菅内閣総理大臣が、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。日本中でカーボンニュートラルって何?どうすれば達成できるの?という議論が沢山でました。そんな中、BEVだけにすればよいという議論もあったと思います。

カーボンニュートラルというのを正しく理解していくと、エネルギーを「つくる」「はこぶ」「つかう」、このすべてのプロセスにおいて達成すべきことであり、エネルギー事情によって様々な選択肢があることを理解し始めました。このことを、どうしたら世間の人に理解していただけるのか、そしてカーボンニュートラルの開発をよりスピードアップし、アジャイルで進めていけるのか、この答えが、水素エンジンによるレース参戦で開発をしていくことでした。」

カーボンニュートラルの選択肢で、なぜ水素燃料を選択したのかは語られていないが、「つくる」「はこぶ」「つかう」について、水素はより困難で多くの仲間を必要とする頂きだからこそ、チャレンジを挑んだのかもしれないと感じた。

3合目 2021年9月@鈴鹿サーキット、11月@岡山国際サーキット

  • 水素エンジンカローラへの給水素の様子

給水素の3合目はツイン充填。第5戦の鈴鹿サーキットで車両の両サイドからのツイン充填になった。その成果は、5月の富士TEC 24時間レースでは5分/回が、作業方法の改善も含め2分になったことだ。
また、このレースでは川崎重工や水素を通じた“仲間”の企業が協力し、オーストラリアで褐炭から作られた水素を「はこぶ」ことをテーマに挑戦した。

市販化に向けた3合目は燃費開発。第6戦岡山国際サーキットでは、出力を約20%、トルクを約30%、しかも燃費は維持させた。
そして、このレースでも仲間が増えている。、マツダ、SUBARU、トヨタ自動車、川崎重工業、ヤマハ発動機の5社社長がそろい、カーボンニュートラル実現に向けて内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる取り組みについて会見した。なお。マツダはバイオ燃料のデミオで来期(2022年)フル参戦することを発表している。
マツダの参戦は急遽決まったということで、マツダ株式会社の丸本明社長は、「9月にモリゾウさんから、サーキットに遊びに来ないかとお誘いを受けた。単に行くことはできなので、短期間でクルマを造った。今回は、来年に向けての課題探しです」と語っていた。

今後について勝手な推測

給水素への道
1合目:給水素練習およびテスト (21年)
2合目:昇圧率アップ (21年)
3合目:ツイン充填 (22年)
4合目:大流量化 (現時点の位置)
5合目:液体化助走 (23年)
6合目:システム小型化 (23年)
7合目:信頼性作り込み
8合目:実証評価
9合目:試乗適合。改善
10合目:ガソリン並み

今後の水素GRカローラはどうなるのだろうか。給水素の道をみると、23年に5合目の液体化助走、6合目のシステム小型化となっている。市販化に向けても、6合目にタンク小型化があげられている。
現時点では、液体水素ではレース参戦できるレベルには到達していないが、年内デビューを目標としているとのことだ。一方で、スーパー耐久は残り5戦しかなく、7月に2戦、9月、10月、11月に1戦となる。年後半でのデビューを期待してしまう。

レース参戦となると、液体水素が現状の気体水素より総合順位をあげられるのかが気になるところだ。大事な要素である車重は、既存と変わらないかもしれない。というのも、液体水素のタンクは小さいものの、マイナス253℃を保つ冷却装置などユニットなどあり、既存の気体水素のユニットと比較して軽いとは言えないからだ。

一方、航続距離は、現状のボンベ4本を後席に積んでいる気体水素と比較すると、タンク1本で、2倍程度の後続距離を走れるそうだ。出力、トルクを気体水素と同じ程度と考えると、ピットストップ(給水素)回数は半分ですむため、5時間耐久であれば8周程度は気体水素より多く走れる可能性もある。今より総合順位があがると勝手にワクワクしている。

(文/写真:GAZOO編集部)

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