[S耐のスーパーな人]Vol.10 木下正治さん 「楽しい」を連発!心からレースを楽しむ名門5ZIGEN代表

さて、今回の「S耐のスーパーな人」は、佐々木孝太選手からご紹介いただいたTEAM 5ZIGENチーム代表の木下正治さんです。人気のアフターパーツメーカーの代表取締役社長でありながら、チーム代表として名門レースチームを率いる生粋のレース好きな木下代表に、フル参戦復帰の理由から、レースを通じて叶えたい想いなどを伺いました。

※以下、スーパー耐久第3戦富士で取材させていただいた内容です。

レースをやりたいから自分の会社を立ち上げた

──レースを始めるきっかけはどのようなものだったのですか?

「実家は京都の魚屋なんですが、18歳で免許をとってからはよく鈴鹿サーキットにレースを観戦しに行っていました。観ているうちに、「僕にもできるんじゃないかな」と思ってレースを始めたんです。そこから30歳で結婚するまで、ハヤシレーシングでサラリーマンをしながらレースを続けていました」

「その後独立して、自社で工場を持っているマフラーとアルミホイールの製造をメインとする5ZIGENを設立しました。レースをやりたいから会社を起こしたようなところもあるのですが、自社のガレージも用意してレースをするようになりました。そこからシビックでS耐に出たり、アルテッツァのワンメイクレースにも初年度から参戦したり、たくさんのカテゴリーに参戦しましたが、あの頃は本当に楽しかったですね」

──トップカテゴリーにも参戦されていました

「F3000やフォーミュラニッポンなどフォーミュラレースはずっとやっていて、全日本GT選手権のGT500にもスープラで3年出ていたり、マフラーの工場にある自前のメンテナンスガレージには、一時期社員のメカニックだけで20人以上いました」

「その後、トップカテゴリーのレースが複雑になってきて、参戦するハードルも高くなってきたことを機にレース活動をいったん終了しました。そこから10年弱くらいブランクがありましたが、やっぱりなんかレースをしないと楽しくないなと。S耐であれば参加型のレースなのでやってみようかなと思い、昨年からフルシーズンで参戦を開始しました」

順位は後からついてくる。1位はチェッカーを受けたご褒美

──スーパー耐久はどんなレースだと感じていますか?

「S耐はプロもアマチュアも混走で勝負ができて、本当のヨーロッパのレースをそのまま持ってきている形なので、すごくいいレースだと思います。SUPER GTのGT300とかに出たい上を目指すドライバーもいるでしょうが、技量や資金などの問題で一握りのドライバーしか参加できません。その受け皿という面もあったり、いろんなクラスがあるので異種格闘技みたいな感じで楽しいと思います」

「世代交代が進んで知らないドライバーは増えましたが、クルマを走らせている側の人は知っている人がたくさんいるので、サーキットに来ると懐かしいというのもありますね」

「フォーミュラレースですと、一人のドライバーのスタイルや好みに合わせてタイムにこだわればいいんですけど、S耐では最低でも3人は乗るので、3人に合わせ込んでいく必要があります。あまり尖ったセッティングをすると、どうしてもジェントルマンが乗りづらいですし、うまく3人のいいとこ取り、例えば全員が1秒以内にはいるようなセッティングをする必要があります」

──ST-Zクラスはどのようなクラスだと思いますか?

「ST-Zで走るGT4はお金を出せば買えるレーシングカーだと思いますが、買ってきたままのツルシの状態では速くはありません。スプリングも何種類かしか使えないなどいろいろな規制はありますが、ルールの中で小さいところを工夫してセッティングを煮詰めていかなければならないので、やりがいはあります」

「あとは、GT3やGT4はかなり安全に配慮した作りになっていますので、ジェントルマンドライバーが乗っても安心感があります」

──勝負へのこだわりを教えてください

「自分の基本的な考え方ですが、まずはチェッカーを受けることが大切で、順位は後からついてくるものだと思っています。最初から1位を狙うのではなく、チェッカーを受けた時にご褒美として1位とか2位がある、それが4位や5位でも、精一杯やった後の結果なので、次頑張ればいいと切り替えています」

「ドライバーラインナップも、以前5ZIGENからフォーミュラニッポンに参戦していた金石年弘選手をはじめ、みんな好きなメンバーでやらせてもらっています。現役のスーパーフォーミュラやSUPER GTのドライバーはいませんが、いい戦いができているのでそこも楽しめていますね」

──スーパー耐久に参戦するメリットは?

「いいレーシングカーを走らせているとすごく参考になりますよね。マフラーメーカーですが、マフラーを自社製に交換することはできません。でも、レースを通じて世界基準のマフラーに触れたり解析したりすることで、ただ真似るということではなく、開発や企画のためになっていますね」

若手ドライバーにいろいろ経験させてあげたい

──市販車で印象深いクルマは?

「本当にクルマが好きなので、話題になったクルマは、個人、会社をあわせればほとんど乗ってきました。これまで乗ったクルマで一番楽しかったのは免許を取って初めて乗ったいすゞのジェミニですかね。先日まで乗っていたハイパーバージョンのBMW M6とかは、乗ればレーシングカーみたいで楽しいですけど、好きなクルマとはちょっと違うんですよね」

「以前から探していてるのはトヨタのスポーツ800とホンダのS600で、なかなか程度がいいのが見つからないですが、今でもほしいと思っています。あとは、全日本GT選手権にTRDさんと一緒に開発して参戦したスープラは、プライベートチームながら一度勝つこともできましたしすごく印象が強いですね。ですからスープラにも思い入れがあります」

──レースに戻ってきて、どんな夢を描いていますか?

「以前たくさんのレースに参戦していた時のように、5ZIGENにレースのイメージをもう一度つけたいですし、若い子がクルマ離れしている時代ですので、5ZIGENを見てクルマが好きになってもらえたらありがたいですね。本音では勝ちたいですが、そこにこだわらず、皆さんに楽しみを提供できるチームになりたいですね」

「また、今回も若手のドライバーを練習で乗せています。自分の子供よりも若い世代が出てきて、一緒に何日間かレースで過ごしていると、純粋ですしかわいいもんですよね。若いドライバーにチャンスをあげたりすることで、モータースポーツがメジャーなスポーツとして認められるように、微力ではありますが貢献できたらと思います」

「あとは、昔からのファンの方が応援に来てくれて、『また5ZIGEがレースに出るのを待っていたんですよ』と言っていただいたり、いろいろ話できるのも楽しいので、できる限り続けていきたいです」

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お話を伺っている間、「楽しい」という言葉をどんな話題に対しても何度もおっしゃっていたことが印象的でした。

レース前のグリッドウォークでも、多くのプロドライバーの方があいさつに訪れては、笑顔でお話される姿を見て、本当にレース、そしてクルマ好きが集まる空間を楽しんでいることが伝わってきました。

そんな木下さんにご紹介いただいたのは、青木孝之選手です。レースがしたくて、自らレーシングガレージの門を叩いたという、生粋のクルマ好きのインタビューをお届けします。お楽しみに~。

[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road