水素インフラ、ラリー・イベント・音楽ライブを支える水素のチカラ・・・寺田昌弘連載コラム

水素と酸素を化学反応させて電気エネルギーを生み、出るのは水だけとカーボンフリーのFC発電機ですが、モビリティの電力(水素エンジン)としてだけでなく、発電機として活用されることが増えてきました。

トヨタはトヨタエナジーソリューションズと共同で、2019年9月からミライ2台分のFCスタック、パワーコントロールユニット(PCU)、2次電池などのFCシステムを活用したFCシステムを本社工場で24時間稼働させながら実証実験をしています。

またFCシステムをほかの車種に搭載する新たなモビリティの可能性の探求もしており、ミライから生まれた技術がどのように活用されているのか、いろんな現場を見ながらお手伝いしてきました。

ラリージャパンのTGR-WRTのサービスパークをサポート

愛知・岐阜で開催されたWRC最終戦、ラリージャパン。TOYOTA GAZOO Racing WORLD RALLY TEAM(TGR-WRT)、HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM、M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAMのサービスパークのなかで最も静かだったのがTGR-WRT。

ほかの2チームは、従来通りのディーゼル発電機だけで電力を賄っていましたが、TGR-WRTは、グリーン水素を使用したFC発電機を中心に、バイオディーゼル燃料を使用したディーゼル発電機を併用していました。

WRCトップカテゴリーマシンが、ハイブリッドシステムを使用しながら環境に配慮したモータースポーツを目指しているから、付帯する環境もカーボンニュートラルへ向けたアクションは必要。

昨年に続き2回目の実施で、チームスタッフからは「サービスパークがとても静かなのは画期的なこと」と歓迎されています。

確かに、このFC発電機のすぐ近くにはチームのデータ解析ルームがあり、ディーゼル発電機では不可能なレイアウトをFC発電機が可能にしてくれるメリットは大きいです。

今まで特に不具合はありませんが、サービスパークで急に電気が使えなくなることが困るので、長年実績のあるディーゼル発電機も使っています。こちらもバイオディーゼル燃料にして環境負荷を抑えた発電機となっています。

FC発電機もこういった大舞台で実績を積み重ね、やがてFC発電機のみでサービスパーク全体を支える日が近いと感じました。

S耐ファイナルのイベント食を給電と燃焼で支える

第7戦、S耐ファイナル 富士4時間レースwith フジニックフェスでは、トヨタ初となる高圧水素タンクからFC発電機と水素ピザ窯へ供給が行われ、「電力」と「燃焼」を同時に得ていました。

「電力」は、グルメエンターテイナーのフォーリンデブはっしーさんが厳選した10台を超えるキッチンカーへ供給しています。

今まではキッチンカーごとに自前の小型エンジン発電機を使っていました。燃料は1日持たない為、途中で給油するために呼び燃料をジェリ缶で持ち込んだりして手間がかかっていたのですが、FC発電機のおかげで調理に集中できると好評でした。

「燃焼」はジャパンモビリティショーでも出展され、大好評だった水素ピザ窯から。今回は来場者に焼き立てのクロワッサンを無料で提供します。

これはリンナイとトヨタで共同開発され、燃焼部分をリンナイが、安全制御をトヨタが担当し、それぞれのプロの技術が結集した最新式の調理器具です。

私は1年間、別の機関で水素燃焼コンロに関わってきましたが、通常、水素は燃焼しても肉眼で見えません。それを目に見えるようにしたり、ミライの制御技術で水素と窯の安全管理をしていたりと、水素利活用の安全性向上に技術でサポートできているところが特にすばらしいと感じました。

水素はLPガスと比較して燃焼温度が高く、カリっと焼き上がります。また、燃焼時に水蒸気が発生することで、食材の周りにオブラートのようにつくので蒸し焼きのような状態となるため、中がふっくら焼きあがるのが特徴です。

また水素は無味無臭のため、食材の味を活かして焼き上げられるというメリットもあります。試食された皆さんには「モチっとパリッと新食感のクロワッサンでとてもおいしい!」と大好評でした。

TGRラリーチャレンジでは大会本部電源をサポート

「TGRラリーチャレンジ富士山すその」では、グランエースFCEVがサービスパーク入口に展示されるだけでなく、そこから大会本部と各参加車両の位置確認、安全管理をするRallyStreamのPC関係の電源供給を実施していました。

今まで小型可搬式発電機を使用していて、「エンジン音がうるさい」「ガソリンを補充するため、予備ガソリンをタンクで保管していることが危険」(ラリーのサービスパークでは予備燃料で車両への給油を禁止しています)といったデメリットがあるのですが、グランエースFCEVからの給電はデメリットがなく、2日間のイベントで水素を補充する必要もなく、メリットが大きいのです。

グランエースFCEVを見学にきた来場者も多く、モバイルオフィスのような車内に乗り込み、大画面でラリー実況を観て楽しむ方々も多かったです。帰りがけに同乗試乗させていただいたのですが、スムーズな加速と静粛性は、移動中でもモバイルオフィスとして活用できるレベルです。

SUGIZOさんとの縁で、エンタメのカーボンニュートラルへ向けた活動をサポート

20年来、仕事でお付き合いのあるヘアメイクさんから「アーティストのSUGIZOさんから相談がある」と伺い、武道館のライブにお誘いいただいたのが、一昨年の夏。

SUGIZOさんはLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARSなどのギタリストとしてみなさんご存じだと思いますが、2017年よりFCEVから給電して楽器電源としながら、エンターテインメント業界でカーボンニュートラルを目指す活動をしています。

ご自身でもミライと可搬型外部給電器を購入し、愛車のミライからご自身のギターアンプへカーボンフリーの電気を送っています。また会場にもよりますが、できるかぎりグリーン水素を充填しているというこだわりもあります。

先日、仙台ゼビオアリーナをサポートしにいったとき、ミライの停車位置が沿道から見える場所だったのですが、歩道を歩く何人ものファンから「これ水素のクルマで二酸化炭素を出さない電気で楽器を演奏しているんだよ」と話す声が聞こえてきて、SUGIZOさんの活動がファンの方々に伝わっていて感動しました。

こういったエンタメ業界からもカーボンニュートラルへ向けた意識が高まるのはすばらしいです。

また愛知のガイシホールでは、名古屋市長の河村たかしさんが視察にみえ、ミライに加え、クラウンFCEVも給電車両として加わり、そのチーフエンジニアの清水竜太郎さんから燃料電池の仕組みや水素貯蔵方法から給電に至るまでを解説していただきました。

河村市長は、水素エンジンでのモータースポーツ活動や量産しているFCEVの環境貢献など、トヨタの取り組みを理解され「やっぱ水素だがや」と名古屋弁を大切にされる市長ならではのコメントをいただきました。

今年はLUNA SEA結成35周年でツアーが発表されましたので、ぜひカーボンフリー電源から奏でる音楽を体感していただきたいです。

今回紹介したことは、その多くがバックヤード、バックステージで静かに給電し、イベントを支える縁の下の力持ち的存在ですが、カーボンニュートラルを目指す活動のなかでとても重要なことだと体感しました。

どこかで見かける機会がありましたら、これが水素で二酸化炭素を出さずに発電しているものだと知ってもらえたらうれしいです。

写真:藤瀬 浩史・寺田昌弘/文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road