2台の水素エンジン小型モビリティがジャパンモビリティショー2023で初展示!ベースとなるYAMAHA YXZ1000Rに乗ってみた・・・寺田昌弘連載コラム

10月27日(金)から東京ビックサイトで「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(以降:JMS)」が開催されます。(一般公開は10月28日(土)から)

みんなで一緒に未来を考える場としてキーワードのひとつになってくるのが「水素」。

私の年代は、エンジンから伝わる振動、そしてマフラーから放たれる咆哮に心昂るものですが、その体感そのままにカーボンニュートラルを目指して開発・実証がすすめられているのが「水素エンジン」です。水素エンジンは、ガソリンや軽油の代わりに水素を混合気にして内燃機関で燃やし、動力を得ます。

すでにトヨタでは水素エンジンのGRカローラでスーパー耐久シリーズに参戦しながら鍛えていますし、LEXUSではプロトタイプですが水素バギーを走らせながら、未開の分野に新たな轍をつけています。

そんななか、水素エンジン技術に秀でているヤマハ発動機(以降ヤマハ)が、水素用直噴インジェクターを使用してCO2を排出しない(極微量のエンジンオイル燃焼分を除く)、100%水素エンジン搭載のROV、「YXZ1000R」を今年のJMSに出展しています。
(※ROV…Recreational Off-highway Vehicle)

ヤマハは四輪バギーで主に北米の市場を拡げ、農業・畜産業の仕事の足やアウトドアレジャーを楽しむ道具として新たなモビリティの可能性に挑み続けています。

北米で人気のYXZ1000Rをはじめ、数台の四輪バギーに試乗する機会をいただきました。しかもパリ・ダカールラリー時代からの大先輩で、YXZ1000Rでアフリカエコレースに参戦しているダカールの鉄人、菅原義正さんとコドライバーの増田まみさんとご一緒できるというサプライズもあり、ワクワクしながらテストコースへ向かいました。

  • YXZ1000R(水素エンジン)は東5ホールのヤマハブースに展示

軽さとパワー、操る楽しさを凝縮したYXZ1000R

四輪バギーは北米が主な市場ですが、モータースポーツの世界では年々人気が高まっています。ダカールラリーをはじめ、ワールドラリーレイドでも、今やオート部門より参戦台数が多くなるほど大人気のカテゴリーです。

観る側からすれば、バイクやクルマが砂漠を走っているほうが面白いのかもしれません。しかし、走る側からすれば四輪バギーは市販の4WD車と比較すると格段にドライビングに集中できて楽しいです。

四輪バギーは車重が軽いので砂丘でスタックしにくく、パワーがあるのでフラットダートも高速で走れ、サスペンションストローク量が大きいので岩がゴツゴツしているガレ場でも、オーバースピードでギャップに進入し、多少ジャンプしても衝撃を吸収してくれます。

四輪バギーの多くは、CVTを採用しているので、ステアリングに集中してアクセルは割とラフに踏んで楽しめます。YXZ1000Rはオートクラッチのパドルシフトで、ギヤをドライバーが選択します。

実は以前乗ったことがあるのですが、初めてドライブしたときはボディの振動にうまくカラダを合わせられず、パドルシフトを指で触ってしまったりして、逆にそこを意識するとスピードが出せないというジレンマがありました。

今回はうまく振動にカラダを同調させながら走れ、パドルシフトも思ったところでシフトアップやダウンをできました。こうなるとCVTより俄然ドライビングが楽しくなり、回転数を引き上げながらシフトアップし、さらに加速していく高揚感がたまりません。

ヤマハはバイクもそうですが、乗りこなす楽しさ、操っている満足感がドライバーに湧き上がってくる味つけがとてもうまいです。

998cc並列3気筒エンジンはバイクのようにピックアップがよく、クルマよりバイクに乗っている感覚です。ヤマハのテストドライバーに同乗し、YXZ1000R本来の性能を体感させていただいてから、再度自分でドライブしてみるとさらに速く安定して走れます。

こうしてドライバーとマシンとが対話しながら息を合わせていくような感覚が、なによりおもしろいです。また、ドライバーのすぐ後ろにエンジンがあり、バイクのようなマフラーから聞こえるエキゾーストノートが、フォーミュラマシンに乗っているような高揚感でたまりません。

これがCO2排出を気にせず走れる水素エンジンになるためにも、開発者のみなさんにぜひ頑張っていただきたいと思います。

  • 細い悪路も難なく走破するYXZ1000R

冒険心を沸き立たせてくれるWOLVERINE

四輪バギーはレースが目立ちますが、農業や酪農などの業務用途からハンティングやトレイル走行などレクリエーションの市場のほうが大きいです。

気軽に乗れて、4WDのクルマではスタックしてしまう泥ねい路や凸凹路も軽々と走れる四輪バギー。ヤマハはこのカテゴリーにWOLVERINEシリーズをラインナップしています。

今回はアップダウンがある森の木々の間を走ったり、30度近い傾斜の坂を登ったり、下ったりと、まるで四輪バギーでフィールドアスレチックをするかのようなトレイルをWOLVERINEで走らせていただきました。

ベースグレードは847cc、上級グレードのRMAXは999cc、ともにDOHC4バルブ並列2気筒です。以前、849cc 5バルブ並列2気筒のヤマハTRX850というバイクに乗っていましたが、低回転からトルクフルで、扱いやすいエンジンでとても走りやすかったです。このWOLVERINEに搭載されている両エンジンとも、とても似た扱いやすさが印象的でした。

細い林道で急坂に差し掛かり、助走が取れない場所でもトルクフルに坂を軽々と登るのには感動しました。さらに走行するシーンに合わせて、最適なエンジン応答性を実現する機能「D-MODE」も走りやすさをサポートしてくれます。

Sportモードはフラットダートで高速で走るときにリニアに反応し、Trailモードは中速での反応がよくなり、Crawlモードはソフトな反応で、ロックなど低速でトラクションをしっかり感じながら走るときに役立ちます。

バイクに例えると一見、YXZ1000RはモトクロッサーでWOLVERINEシリーズはトレイルバイクと思われがちですが、WOLVERINE RMAX2は、排気量もサスペンションストロークもYXZ1000Rとそこまで大きな差がなく、トレイルからスポーツ走行まで楽しめるマルチパーパスモデルでした。

こういった乗っていてワクワクするモビリティは、日本でもぜひ身近に乗れるフィールドが増え、レクリエーションのひとつとして広まるといいですね。

  • 丸一日思いっきりヤマハROVの世界を堪能した。

水素小型モビリティでダカール2024に挑む

カワサキモータース・スズキ・本田技研工業・ヤマハ発動機の4社に加え、トヨタ・川崎重工が参画する「技術研究組合 水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology)」。

HySEは、水素小型モビリティの課題抽出を目的として、「ダカール2024」の新カテゴリー「Mission 1000」に998cc直列4気筒スーパーチャージャーつきの水素エンジン車「HySE-X1」で参戦します。

  • HySE-X1

    HySE-X1

「Mission 1000」は水素エンジンやBEV、バイオフューエル燃料を使用したハイブリッドなど、環境負荷を抑えたパワートレインの技術開発の場として設けられ、1日100km以上のSS(競技区間)を走る過酷なステージが待ち受けています。

車両と運営は、ダカールラリーのトップカテゴリーをハイラックスで走るOverdrive Racingが担当します。Overdrive Racing代表のジャンマルク・フォルティンさんは私と同じ1968年生まれで、ダカール取材では毎年一緒にダカールを旅した仲間です。

彼は元ラリードライバーで大のモータースポーツ好き。スーパープロダクションのマシン製作技術を活かし、四輪バギーもオリジナルマシン「OT3」を製作。前回のダカール2023では3位入賞しました。このダカールで実績のあるマシンをベースにHySEの小型水素エンジンを搭載するので、走りも期待できます。

前述の「YXZ1000R(水素エンジン搭載)」と「HySE-X1(モックアップ)」はジャパンモビリティショーで観られます。ぜひ、次世代水素エンジン搭載小型モビリティの可能性を現地で感じてみてください。

  • HySE-X1 ジャパンモビリティショー。HySE-X1は東新展示棟モータースポーツエリアに展示

    HySE-X1 ジャパンモビリティショー。HySE-X1は東新展示棟モータースポーツエリアに展示

写真:ヤマハ発動機、HySE、小隅博範/文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road