マークX マイナーチェンジ、開発責任者に強化ポイントを聞く (2016年11月)

トヨタのミドルサイズセダン、マークXが2016年11月にマイナーチェンジをした。開発責任者の西村美明氏に、今回のマイナーチェンジの狙い、強化ポイントについて話を聞いた。

日本のサイズに合ったミドルサイズセダン

1990年頃は、マークXの前身のマークⅡは、ハイソカー(上流階級向けの車)ブームで、姉妹車のクレスタ、チェイサーとあわせて、多い時は月3万台も売れたことがありました。その当時は、クルマといえばセダンでした。

その後、バブル崩壊でクルマの国内市場が縮小し、また、お客様のライフスタイルやニーズの多様化、さらには環境への配慮などによって、ミニバンやSUV、コンパクトカー、軽自動車、エコカー、高級輸入車など様々なタイプのクルマが台頭し、多くのお客様から支持されるようになり、現在ではミドルサイズセダンの市場は、当時の約10分の1の3~4千台/月の規模に縮小しました。

このミドルサイズセダンのカテゴリーには、SAI、カムリ、日産ティアナ、ホンダアコード、スバルレガシーB4、マツダアテンザ、といった車種がラインナップされています。マークXはフルモデルチェンジから7年経過していますが、現在でもこのカテゴリーの中では最も販売台数が多く、まさにこの市場をけん引してきたクルマと自負しています。

では、マークXが競合車と比べてどういったクルマかというと、競合車のほとんどが北米市場を主要ターゲットに室内居住性を重視し、車幅は1,830~1,850㎜くらいまでワイド化し、また、駆動方式もFFになっています。
一方、マークXはあくまでも日本国内にこだわり、車幅を1,795㎜に抑えて日本の狭い道にあったサイズ感を維持しているとともに、FRセダンであることが特長です。回転半径も5.2mと小回りが利く。このサイズのクルマでFFならば実現し難い値です。 室内は、運転席はスポーティ感を持たせているものの、乗ってみると意外に広くて、大人5人がゆったり乗れる。トランクスルーにすればサーフボード(ロングボード)も積むこともできる室内の広さを持ちます。それでいて日本の狭い道路に合わせて外形寸法が大きすぎない。マークXは、日本のお客様にピッタリのサイズのミドルサイズセダンなのです。

マークXの‘スポーティFRセダン’という個性を際立たせた

そして、マークXの何よりもの特長は、競合車が走行性能より燃費性能を重視しているのに対して、スポーティな走りが楽しめるFRセダンであることです。

走行性能については、2.5L/3.5L V6DOHCエンジンの設定で高いパワーを持ち、足回りはダブルウィッシュボーンとリアにマルチリンクサスペンションを設定し、フルモデルチェンジから7年経過した今でも、競合車にひけをとっていません。

今回の開発にあたっては、日本にあったサイズ感を維持することを前提に、マークXの強み、個性である‘FRスポーティセダン’を、さらに際立たせることを強化ポイントに企画しました。近年、エコカーブームの中、ハイブリッドカーを選ばれるお客様も多いのですが、このクラスのクルマでは燃費性能だけでは買ってもらえない。また、トヨタには、SAI、カムリと言ったハイブリット専用車がある。ハイブリッドを敢えて採用せず、あくまでも格好良いFRスポーティセダンにこだわり、商品強化を行いました。

スポーティ=‘格好良い’にこだわった外観デザイン・室内

スポーティなクルマは、ただ走行性能、操縦安定性が良いだけでなく、いかにかっこいい外観スタイリングにするかが重要です。
元々持っているスポーティなスタイルをさらに強調する為に、フロントを20mm延長して平面ラウンドを付ける事で、ノーズが低く、クルマ全体が低く構えたようなスタイルにしました。デザイナーとは、「陸上の100メートル走のスタートラインで、選手が身体を小さくして、低く構えて、下からゴールを見つめている」イメージにしたいと話ました。前から見ると、今にも勢いよく飛び出してくるような、イメージのデザインに仕上がっています。

また、フロントの下部の開口部を大きくとり、踏ん張り感を強調するとともに、「このクルマにはすごく大きな吸気口があるぞ!走るぞ!」と感じてもらう。そのためにも、ちょっと厳ついくらいスポーティなデザインに変更しました。
また、ロアグリルにメッシュが徐々に浮き出してくる造形で変化を付けたり、ラジエターグリルには見る方向でサイズが変わる造形に加え、艶のある塗装を施し、ヘッドランプには6眼タイプやLEDを採用するなど細部にこだわって造り込み、落ち着いた大人のスポーティ感や質感を演出しています。

室内も、ミドルサイズセダンにふさわしい高級感があり、大人のスポーティな雰囲気を感じていただけるようにしました。 今回新設定した上級スポーツグレード「RDS(Rakish(粋な) Dynamic Sportsの略)」には、黒色をベースに赤色、または、白色でコントラスをつける色調にしています。黒色に合わせる赤色を選ぶにあたっては、本格的なスポーツカーのような刺激が強すぎる赤ではなく、大人のスポーティに考慮した、落ちついたイメージのもの採用しました。

シートの表皮は合皮と市場で好評なアルカンターラを組み合わせ、高級感を演出しています。さらに、内装加飾はピアノブラックの表面に、レーザーで少しずつ形と方向を変えた細かい模様を入れて、光が当たると波状に輝くような緻密な処理を施しています。

いずれも、気持ちと手の込んだような細かい配慮ですが、こうした細部の緻密なこだわりが全体の高級感、粋な大人のスポーティ感を醸し出し、マークXの持つスポーティなポテンシャルを五感で感じていただけると確信しています。

ボディ剛性を高めて走りを熟成

今回、マークXが元々、持っていた走りの魅力に磨きをかけ、改良というより、熟成度を高めました。
充分な出力を持ったエンジンは変更せず、ボディの体幹を向上させました。スポット溶接を90箇所以上打ち増しし、約6メートルに渡る部分に構造用接着剤を使用し、接合部の強度アップを図っています。ボディのポテンシャルを上げることで、コーナーで横Gがかかった時や路面の凹凸を拾った時の車体のねじれ・振動を抑えることができ、合わせてサスペンションのショックアブソーバ、ブッシュ特性をチューニングして、上質な乗り心地、リニアな操縦安定性を実現しました。

スポット溶接を90箇所以上打ち増しし、約6メートルに渡る部分に構造用接着剤を使用し、接合部の強度アップを図り、ボディ剛性を強化

今回、グレードの設定も、ラグジュアリ思考のプレミアムグレードを廃止し、その代わりに、上級スポーツグレードとして「RDS(Rakish Dynamic Sports)」という、スポーティな走りと、1クラス上の上質感を持つグレードを新設定し、マークX=スポーティなクルマという方向性を明確にしました。

また、安全性の面では、衝突回避支援などの先進安全装備「Toyota Safety Sense P」を全車に標準装備しています。死亡事故の発生割合が高い事故形態や、高速域まで対応する実安全効果の高い機能を組み合わせており、交通事故の大幅な低減を期待しています。

今回、マークXの個性である‘FRスポーティセダン’に磨きをかけ、外観・内装、走り両面で、スポーティなクルマを知り尽くした方にも十分満足いただけるクルマに仕上がったと自負しています。是非、1人でも多くの方に、実車に乗っていただき、新型マークXの魅力を知っていただければと願っています。

<プロフィール>
西村美明(にしむら・よしあき)
1959年生まれ。下関工業高校卒後、1979年、トヨタ自動車工業に技術職として入社。子どもの頃から絵が大好きで、クルマのデザインがやりたかった。配属はボデー設計部。最初の仕事はマークIIのチームで初代クレスタを担当。ボデー設計部に25年勤務し、アンダーからアッパーボディまでひと通り全部を経験。部内の企画セクションでコンセプト提案(ファンガード格納シート等)、中国プロジェクトなどを経て、2004年1月に自ら希望して製品企画部に異動。GSの担当を経て、2代目マークXの開発チームに参加。以来、ずっとマークXを担当。新型マークXではゼロから開発のすべてを任せられる。趣味は卓球、テニス、マラソン。現在も毎日、ジョギングはかかさない。密かに、60歳でフルマラソン完走+αを目指す。

取材・文・写真:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

 

[ガズー編集部]

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