【試乗記】スバル・レヴォーグSTI Sport EX(4WD/CVT)

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    スバル・レヴォーグSTI Sport EX(4WD/CVT)

とことんまじめに

2020年10月のデビュー以来、各方面で高い評価を得ている新型「スバルレヴォーグ」。その走りのよさは、雪の上でも健在か? 東京から雪の降り積もる群馬・嬬恋方面へのドライブを通し、最新のシンメトリカルAWDの走破性能を確かめた。

まずは視界のよさに驚く

雪山へ向かうというのに、待ち合わせの場所に編集担当が乗って現れたのは、前にも後ろにも横にも黒々とした大きなアンダースポイラーの付いた車両だった。どうやら「STIエアロパッケージ」というオプション装着車のようだ。

遅ればせながら新型レヴォーグに試乗する機会を得た。「2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」を受賞し、同業諸氏もすでに数名が実際に購入したと聞く。その出来栄えに、いやがうえにも期待は高まる。

エクステリアデザインは、基本は先代のフォルムを踏襲しながら、より洗練された印象だ。中央に切れ込みの入ったヘッドライトやテールライトが特徴的で、ボンネット上には、今やスバル車でも少数となりつつあるエアスクープが備わっている。

かつて、背丈の低い水平対向エンジンゆえに、その上部にインタークーラーが装着可能で、よってボンネットにエアスクープが必要だったという話を聞いたことがある。しかし、空力的にはないほうがいいだろうし、ましてやレヴォーグのエンジンは一から開発された新型である。想像するに、今の技術をもってすれば取り除くことも可能だったろう。それでもあえて残したというところにこだわりを感じる。

室内に乗り込むと、フラットボトムのステアリングホイールの奥には、12.3インチのフル液晶メーターが、インストゥルメントパネルの中央には11.6インチの縦長のタッチスクリーンが備わる。そうした華やかな装備に目を奪われがちだが、少し俯瞰(ふかん)してみれば、ダッシュボードの上がフラットで視界を遮るものがなく、Aピラーの付け根にはサイドミラーと干渉しないようにデザインされた小窓が設けられている。とにかく見晴らしがいいのだ。個人的にはもう少しだけシートポジションを低い位置に調整できればと感じたけれど、良好な視界を味わうための配慮だとすれば合点がいく。バックミラーに目をやると、後方視界もしっかりと確保されている。

進化を続ける「スバルグローバルプラットフォーム」

右手側にあるエンジンスタートボタンを押すと、新開発という1.8リッター直噴ターボエンジンが静かに目覚めた。いにしえのボクサーサウンドなどみじんも感じられず、言われなければ水平対向エンジンだとは気づかないほど静粛性は高い。最高出力は177PSと、先代の2リッターターボのようなパワー感はもちろんない。高回転まで回して楽しむよりも、1600rpmから生み出される300N・mの最大トルクを使って気持ちよく走るのに向く。日常領域である低中速の使いやすさを重視したタイプだ。

驚いたのはそのボディーの剛性感。現行「インプレッサ」などと同様の「スバルグローバルプラットフォーム」を採用するが、既存のモデルとは隔世の感がある。従来はアッパーやフロア、サイドコンポーネントを別々に組み立ててアッセンブルしていたものを、まずボディー骨格全体を組み上げてから外板をかぶせるフルインナーフレーム構造に変更したことで、軽量化しつつねじり剛性を大幅にアップさせた。

また上級グレードの「STI Sport」にはZF製の電制ダンパーが装備されているが、これがいい仕事をする。メルセデス・ベンツやBMWなど欧州プレミアムブランドが多く採用しているダンパーだが、高剛性ボディーとの組み合わせで、日本車離れした乗り味を実現している。

より高精度かつ多機能に進化したアイサイト

高速道路にのると、ステアリング右スポーク部に備わるスイッチを操作して、新型のハイライトのひとつである「アイサイトX」の運転支援システムをセットする。システムは広角化した新開発のステレオカメラに加えて、前後4つのレーダーによって構成される。もともと定評のあったアイサイトのクルーズコントロールだが、ステアリング操作やブレーキ制御などの洗練度が増している。

最新のアイサイトXではGPS情報と3D高精度地図データを組み合わせ、自動車専用道路での渋滞時(0〜50km/h)など、一定条件下でのハンズオフ走行(手放し運転)を可能にした。また自動で車線変更してくれるアクティブレーンチェンジアシストなど、限りなく“レベル3”に近い自動運転機能も備えている。

唯一気になったのは、高速道路の料金所できっちりと法定速度までスピードを落とすため、周囲のクルマとの速度差の大きさにヒヤッとする場面があったことだ。これは日産の「プロパイロット」などでも感じたことで、レヴォーグの問題というよりは、建前と本音が混在し、法規と現実世界の乖離(かいり)が大きい日本の道路状況によるものだ。運転支援から本当の意味での自動運転へと進むためには、解決すべき課題だろう。

それはさておき、運転支援システムにみるレヴォーグのいい点が、ドライバーの状態を検知するステアリングセンサーに、静電容量式のタッチセンサーを使用していること。トルク感応式では、ステアリングを軽く握っているだけだとアラートが頻発するケースも多いのだが、レヴォーグではそれにイライラさせられることもない。それでいて、ドライバーは顔に向けられたカメラによっても監視されているので、よそ見をすればしっかりと警告を受ける。

カスタマイズ機能で“自家製SNOWモード”を設定

関越自動車道から上信越自動車道に向かい、碓氷軽井沢ICで高速をおりる。数日前に降った雪が路肩に少し残ってはいるものの、路面は除雪が行き届いており、晴天の軽井沢は完全なドライコンディションだった。足元には225/45で18インチサイズのスタッドレスタイヤ「ヨコハマ・アイスガードiG60」を装着していたが、ドライ路面でもロードノイズは低く抑えられており、またブロック剛性が不足しているような印象もなかった。

軽井沢の市街地を抜け、国道146号を北上。鬼押ハイウェー経由で万座を目指す。次第に雪深くなり、ところどころに凍結した路面も現れるが、ていねいな運転さえ心がけていれば挙動が乱れるようなことはない。新型ではカタログなどでもことさらに強調してはいないけれど、レヴォーグの駆動系は言わずもがなの「シンメトリカル4WD」であり、雪上走行もお手の物だ。

STI Sportに用意されるドライブモードは「Comfort」「Normal」「Sport」「Sport+」「Individual」の5種類で、いわゆるスノーモードはない。基本的には「Comfort」か「Normal」で事足りるが、ドライブモードセレクトを使って、パワーユニットとステアリングを「Sport」、サスペンションは「Comfort」の組み合わせを「Individual」にプリセットしておいた。これを個人的なスノーモードとして雪上走行するとちょうどいいあんばいだった。ドライブモードは、ステアリングスイッチやセンターのタッチスクリーンで簡単に切り替えられ、自分好みの走行モードを探す楽しみがある。もちろん、それを享受するにはモードセレクト機能とZFの電制ダンパーが必須なので、走りにこだわりたい人はやはりSTI Sportを選んだほうがいいだろう。

熱く支持されるスバルのこだわり

夕方、目的地の万座エリアに入ると、午後から降る雪で辺り一面が覆われていた。新雪を踏みしめながら、ワインディングロードを安定した姿勢で駆け上がっていく。モーターアシスト軸とドライバーのステアリング操作軸を別軸とした、2ピニオン方式の電動パワーステアリングの滑らかさも印象的だった。懸案だったアンダースポイラーもしっかりとロードクリアランスが確保されており、雪の塊にぶつかるようなこともない。

投宿先のホテルに到着すると、駐車場まで出迎えてくれたポーター係のスタッフが、カメラマンの機材バッグを両手に抱えながら、しげしげとレヴォーグを眺めている。「WRブルー」のSTI仕様がたいそう気に入った様子で、「新型初めて見ました。カッコいいですよね」と興奮気味に話す。聞けばまだハタチで、今は父親のお下がりに乗っているが、いずれはスバルが欲しいのだという。そういえばここは群馬県だから、スバルのおひざ元ともいえるけれど、それでも若者に支持されるのはうれしいことだ。

新型レヴォーグには、「レガシィ」から受け継がれるステーションワゴンであること、水平対向ターボの証しであるエアスクープを備えること、走る・曲がる・止まるの基本性能が高められていること、安全のためにアイサイトを進化させたことなど、実にたくさんのこだわりが詰まっている。全幅が1800mm以下であることや、新開発エンジンがレギュラー仕様で価格的にもアフォーダブルであることも、そこに含まれるだろう。

最新モデルなのにパワートレインが電動化されているわけでもないし、とりたてて速いわけでもないけれど、おそらくCOTYの選考委員は、そうしたつくり手の思いを評価したのではなかろうか。他社のキャッチフレーズで恐縮だが、「まじめ まじめ まじめ」という言葉を思い出した。

(文=藤野太一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

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