【試乗記】スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ(FF/CVT)

スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ(FF/CVT)【試乗記】
スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ(FF/CVT)

ガラパゴスでいいじゃない

生活必需品として、日本で独自の発展をみせる軽乗用車。新型「スペーシア」は、その中で一番の激戦区であるスーパーハイトワゴンカテゴリーに、スズキが投入した自信作だ。ワイルドなフロントマスクが主張する「カスタム」に試乗した。

軽いのにドッシリ

ファニーなマスクの標準顔からガラリ一変、迫力を前面に押し出したフロントマスクを特徴とする「スペーシア カスタム」。今回のテスト車は、トップグレードの「ハイブリッドXSターボ」だ。
ファニーなマスクの標準顔からガラリ一変、迫力を前面に押し出したフロントマスクを特徴とする「スペーシア カスタム」。今回のテスト車は、トップグレードの「ハイブリッドXSターボ」だ。
新型ではベルトラインを高くすることでボディーの厚みを強調。スライドドアの開口幅は、従来型比で+20mmの600mmとしている。
新型ではベルトラインを高くすることでボディーの厚みを強調。スライドドアの開口幅は、従来型比で+20mmの600mmとしている。
バックドアにメッキのガーニッシュを装着することで、リアビューの迫力も増している。
バックドアにメッキのガーニッシュを装着することで、リアビューの迫力も増している。
新型スペーシア カスタムのカタログを開いたら、「常識は、塗り替えるためにある。」というコピーが書いてあった。カタログのうたい文句なんていうのは誇大表示であることが通り相場なのだが、このクルマの場合、カタログの惹句(じゃっく)も大げさではないと思った。試乗したのは、シリーズ最上級グレードの「ハイブリッドXSターボ」(178万7400円)である。

動き出すなり特に印象的なのは、シャシーの剛性感の高さだ。腰から下のしっかり感がスゴイ。後席は両側スライドドアだが、ボディーの剛性感も高い。やっぱり軽だな、と思わせるフロアの薄い感じがまったくない。その点では「ホンダN-BOX」以上だと思った。スズキ車の軽量体質はこの新型スーパーハイトワゴンでも変わらず、900kgの車重は「N-BOXカスタム」のターボより60kg軽い。それを考えると、このドッシリ感は大したものである。

試乗の印象というのは、「その前まで乗っていたクルマ」に支配的な影響を受けてしまうが、今回、撮影のとき同行して、とっかえひっかえステアリングを握ったのは「レクサスLS500“エグゼクティブ”」である。価格で10倍近くするVIPサルーンの直後に乗っても、都落ちな感じはなかった。軽では現行「アルト」に初めて採用された「ハーテクト」と呼ばれる新規プラットフォーム(車台)がスズキの常識を塗り替えたということなのだろうか。

ファニーなマスクの標準顔からガラリ一変、迫力を前面に押し出したフロントマスクを特徴とする「スペーシア カスタム」。今回のテスト車は、トップグレードの「ハイブリッドXSターボ」だ。
ファニーなマスクの標準顔からガラリ一変、迫力を前面に押し出したフロントマスクを特徴とする「スペーシア カスタム」。今回のテスト車は、トップグレードの「ハイブリッドXSターボ」だ。
新型ではベルトラインを高くすることでボディーの厚みを強調。スライドドアの開口幅は、従来型比で+20mmの600mmとしている。
新型ではベルトラインを高くすることでボディーの厚みを強調。スライドドアの開口幅は、従来型比で+20mmの600mmとしている。
バックドアにメッキのガーニッシュを装着することで、リアビューの迫力も増している。
バックドアにメッキのガーニッシュを装着することで、リアビューの迫力も増している。

パワーユニットの出来栄えに感服

東京湾アクアラインを行く「スペーシア カスタム」。ハイトワゴン系は横風に弱いという先入観を覆す、安定感のある走りを見せた。
東京湾アクアラインを行く「スペーシア カスタム」。ハイトワゴン系は横風に弱いという先入観を覆す、安定感のある走りを見せた。
フロントフード下に収まる最高出力64ps、最大トルク98Nmの0.66リッターターボエンジン。モーターのみで最大10秒間のクリープ走行が可能なマイルドハイブリッド機構が組み合わされる。
フロントフード下に収まる最高出力64ps、最大トルク98Nmの0.66リッターターボエンジン。モーターのみで最大10秒間のクリープ走行が可能なマイルドハイブリッド機構が組み合わされる。
モーターを駆動するリチウムイオンバッテリーは、助手席シートアンダーボックスのさらに下に収納されている。
モーターを駆動するリチウムイオンバッテリーは、助手席シートアンダーボックスのさらに下に収納されている。
最高出力はノンターボ+12psの自主規制値64ps、最大トルクは6割増しの98Nm。その3気筒ターボにモーター機能付き発電機とリチウムイオン電池を組み合わせたマイルドハイブリッドを併せ持つのがXSターボである。マイルドハイブリッドはノーマルの「スペーシア」を含めて全車に標準装備だが、ターボはカスタムにしかない。

街なかから高速道路の追い越しレーンまで、パワーは十分以上である。というか、速い。途中からガツンとターボキックが発生するようなターボではなく、下から満遍なく力がある。音も振動も、チャチイところがない。CVTは100km/h時の回転数を2600rpmまで下げ、高速道路でもうるさくない。足まわりのしっかり感を含めて、知らずに運転したら、いったい何ccのクルマなのか見当が付かないかもしれない。

約310kmを走って、燃費は15.5km/リッター(満タン法)だった。これだけ力があって、これだけ空気抵抗のカタマリのようなフォルムをしていることを考えれば、ワルくない。横風に弱いのはハイトワゴン系の弱点だが、東京湾アクアラインの吹きっさらしの橋の上でも、とくべつ不安定な印象はなかった。

東京湾アクアラインを行く「スペーシア カスタム」。ハイトワゴン系は横風に弱いという先入観を覆す、安定感のある走りを見せた。
東京湾アクアラインを行く「スペーシア カスタム」。ハイトワゴン系は横風に弱いという先入観を覆す、安定感のある走りを見せた。
フロントフード下に収まる最高出力64ps、最大トルク98Nmの0.66リッターターボエンジン。モーターのみで最大10秒間のクリープ走行が可能なマイルドハイブリッド機構が組み合わされる。
フロントフード下に収まる最高出力64ps、最大トルク98Nmの0.66リッターターボエンジン。モーターのみで最大10秒間のクリープ走行が可能なマイルドハイブリッド機構が組み合わされる。
モーターを駆動するリチウムイオンバッテリーは、助手席シートアンダーボックスのさらに下に収納されている。
モーターを駆動するリチウムイオンバッテリーは、助手席シートアンダーボックスのさらに下に収納されている。

笑っちゃうほど天井が高い

フロントガラスを立てた外装デザインとの兼ね合いで、新型ではダッシュボードの奥行きが深くなった。フロントシートに座ると、おでこの前に広大なスペースが広がる。
フロントガラスを立てた外装デザインとの兼ね合いで、新型ではダッシュボードの奥行きが深くなった。フロントシートに座ると、おでこの前に広大なスペースが広がる。
ファブリックとレザー調素材が組み合わされた「ハイブリッドXSターボ」のフロントシート。運転席、助手席ともシートヒーターが標準で備わる。
ファブリックとレザー調素材が組み合わされた「ハイブリッドXSターボ」のフロントシート。運転席、助手席ともシートヒーターが標準で備わる。
天井には薄型のサーキュレーターが設置される。小風量の高速気流を吹き出し、前後席の室温を均等に保つ。
天井には薄型のサーキュレーターが設置される。小風量の高速気流を吹き出し、前後席の室温を均等に保つ。
旧型スペーシアより5cm高くなった全高は1785mm。N-BOXとほぼ同寸のスーパーハイトワゴンだから、車内空間は広大だ。特に天井の高さは笑っちゃうほどだ。高めの座面をもつ後席に座ると、膝まわりの空間もレクサスLS500“エグゼクティブ”より広い。

ダッシュボードは奥行きが50cmほどある。ドライバーの目の位置から対角線上に助手席側フロントピラーの付け根までは140cmくらいある。助手席に乗った「ゴルフ」ユーザーの編集部Fさんが、両手を自分の前でグルグルやりながら「こんな空間、いるんですかね?」と言った。こういうクルマは、頭上の空気が重くて、筆者もちょっと落ち着かないが、でも、このサイズの箱型ワゴンがいま軽自動車で一番売れているのだ。

高い天井にはサーキュレーターが備わる。ダッシュボードの吹き出し口から出たエアコンの冷暖房気を後席に飛ばすためのものだ。「ジャパンタクシー」にも付いている。軽でも初めてではないが、スペーシアは邪魔にならない薄型をアピールしている。

こういうキャビンの空気量が大きいクルマに乗ると、前席の後ろに透明なカーテンを付けたらいいのにといつも思う。使っていない室内を無駄に暖めたり冷やしたりする必要はないのだから。

フロントガラスを立てた外装デザインとの兼ね合いで、新型ではダッシュボードの奥行きが深くなった。フロントシートに座ると、おでこの前に広大なスペースが広がる。
フロントガラスを立てた外装デザインとの兼ね合いで、新型ではダッシュボードの奥行きが深くなった。フロントシートに座ると、おでこの前に広大なスペースが広がる。
ファブリックとレザー調素材が組み合わされた「ハイブリッドXSターボ」のフロントシート。運転席、助手席ともシートヒーターが標準で備わる。
ファブリックとレザー調素材が組み合わされた「ハイブリッドXSターボ」のフロントシート。運転席、助手席ともシートヒーターが標準で備わる。
天井には薄型のサーキュレーターが設置される。小風量の高速気流を吹き出し、前後席の室温を均等に保つ。
天井には薄型のサーキュレーターが設置される。小風量の高速気流を吹き出し、前後席の室温を均等に保つ。

軽がここまでやっちゃうなんて!

新型「スペーシア」には、予防安全パッケージ「スズキセーフティーサポート」が搭載される。
新型「スペーシア」には、予防安全パッケージ「スズキセーフティーサポート」が搭載される。
軽自動車では初となるフロントガラス投影式のヘッドアップディスプレイを採用。先にフルモデルチェンジした「ワゴンR」では、フロントガラス手前のプレートに投影する、コンバイナー式だった。
軽自動車では初となるフロントガラス投影式のヘッドアップディスプレイを採用。先にフルモデルチェンジした「ワゴンR」では、フロントガラス手前のプレートに投影する、コンバイナー式だった。
ステアリングスポーク上には、“クルーズコントロール”の操作スイッチや、通常走行中にもモーターアシストを行うことで走行性能をアップさせる「パワーモード」のスイッチが備わる。
ステアリングスポーク上には、“クルーズコントロール”の操作スイッチや、通常走行中にもモーターアシストを行うことで走行性能をアップさせる「パワーモード」のスイッチが備わる。
素でも180万円近くするシリーズ最上級モデル。真上から自車を見下ろせる全方位モニターやカーナビなどのオプションを付けた試乗車は215万円以上する。安い外車より高い。当然、装備はてんこもりだ。全方位モニターをたのむと、セットでヘッドアップディスプレイも付いてくる。

デュアルセンサーブレーキサポート、誤発進抑制機能、車線逸脱警報、ハイビームアシストなどに加え、軽で初めて後方にも誤発進抑制機能が備わる。超音波センサーで障害物を感知して、前にも後ろにもうっかり飛び出さないクルマになった。ステアリングホイール内の使いやすい位置にクルーズコントロールのスイッチが付いているが、これは前車に追従して勝手に加減速してくれるアダプティブクルーズコントロール(ACC)ではない。以前乗った「スイフト」のACCとスイッチが同じだったので、最初に使ったとき、アセった。これだけ高速巡航性能が高いと、ACCは望まれる装備だろう。

だが、乗ってみて、使ってみると、軽がここまでやっちゃうかという感心の連続だ。ガラパゴスニッポン万歳! と叫びたくなるようなクルマである。フツーの顔をしたスペーシアはなかなかのグッドデザインだと思うので、あっちにもこのターボエンジンを用意してもらいたい。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

新型「スペーシア」には、予防安全パッケージ「スズキセーフティーサポート」が搭載される。
新型「スペーシア」には、予防安全パッケージ「スズキセーフティーサポート」が搭載される。
軽自動車では初となるフロントガラス投影式のヘッドアップディスプレイを採用。先にフルモデルチェンジした「ワゴンR」では、フロントガラス手前のプレートに投影する、コンバイナー式だった。
軽自動車では初となるフロントガラス投影式のヘッドアップディスプレイを採用。先にフルモデルチェンジした「ワゴンR」では、フロントガラス手前のプレートに投影する、コンバイナー式だった。
ステアリングスポーク上には、“クルーズコントロール”の操作スイッチや、通常走行中にもモーターアシストを行うことで走行性能をアップさせる「パワーモード」のスイッチが備わる。
ステアリングスポーク上には、“クルーズコントロール”の操作スイッチや、通常走行中にもモーターアシストを行うことで走行性能をアップさせる「パワーモード」のスイッチが備わる。

テスト車のデータ

スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ
スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ
【試乗記】スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ(FF/CVT)
スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1785mm
ホイールベース:2460mm
車重:900kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:98Nm(10.0kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:25.6km/リッター(JC08モード)
価格:178万7400円/テスト車=215万5734円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(7万5600円)/2トーンルーフ仕様<ピュアホワイト・ブラック>(6万4800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン・サキソニー>(2万0142円)/スタンダードメモリーワイドナビ<パナソニック>(14万4018円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット(2754円)/USB接続ケーブル(4644円)/ドライブレコーダー(3万4560円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1643km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:328.6km
使用燃料:21.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.5km/リッター(満タン法)/15.7km/リッター(車載燃費計計測値)

スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ
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